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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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REGRET 4
こちらは、以前のHPで2003年05月24日にUPしたものです
 6話完結 act.4

拍手[3回]


◇◆◇

 パリン!
 薄い硝子が割れるような音に、ゼノンはハッとして顔を上げる。
「何、今の…」
 一瞬、ラップ現象かとも思った。だが、この魔界でラップ現象など起こり得る訳もない。となれば、現実なのだ。
 辺りを見回しても、別段今までと変わりはない。ただ、硝子が割れるような音は、近くから聞こえたのは確かだったのだが…
 怪訝そうに眉を潜めながら清水に目を向けると、閉じられていたその瞳が、僅かに開いている。
「清水、気が付いた?」
 呼びかける声に、清水は僅かに顔を巡らせ、ゼノンに視線を向けた。だが、何かが可笑しい。ずっと感じていた清水の眼差しではないような気がして。
「清水…?」
 感じるのは…彼ではない。外見は清水であるが、その中身は…
「エース……なの?」
 様子を伺うように問いかける声に、清水は微かに口を開いて言葉を発した。
「…彼奴は…?」
 それが、どちらを指したモノなのかはわからない。ただ彼の意を汲むのなら、呼び戻すしかないのだろうが。
 彼は…清水は、もう耐えられない。ゼノンが聞いた硝子が割れる音は、彼の精神壁が壊れ始めた音だったのだ。
「待ってて。直ぐに呼び戻すから」
 結界を張り続けたまま、ゼノンは精神力を高め、最も捕え易いライデンの気を捜し、精神波を飛ばした。
「直ぐに…来るからね。頑張って」
 その言葉は、既に気休めにしかならないだろう。それでも、ゼノンはその言葉を口にせずにはいられなかった。

◇◆◇

 ルークが"繭"の糸を断ち切ると同時に、目映い光が辺りを包み込む。"繭"に触れていたデーモンも、糸を断ち切ったルークでさえも、その光に目を覆う。勿論、ライデンもミカエルも、である。誰一悪魔、その光に目を開けていられる者などいなかった。
 光が薄らいで来た頃、ふとライデンの意識に飛び込んで来た"声"。
「…ゼノ?」
 ライデンが捕えた精神波は、酷く不安定で。
「どうした、ライデン」
 その奇妙な様子に気が付いたデーモンが声をかけると、ライデンはその眼差しをすっとデーモンに向けた。
「呼んでる…デーさんと、エースを……」
「ゼノンが?」
「…酷く、不安定なんだ。だから、上手く掴み切れないけど…多分………」
 その次に出て来るはずの言葉を、ライデンは意図的に飲み込んでいた。
 伝えられない。こんな…苦しい波動の意味など。
「何で…エースを助ければ、清水は助かるんじゃないの!?なのに、どうして…っ!」
 ライデンの悲痛そうな表情で一早くその意図を察したルークが上げた声に、ライデンは首を大きく横に振った。
「わかんないよっ!だって、エースだってまだ…」
 その声にハッとしたように、デーモンもルークも"繭"に目を向ける。
「…どうして…?糸を断ち切れば、助かるんじゃ…」
 思わず零したルークの声。その視線の先にある"繭"は未だ縦横無尽に絡まった糸で包まれている。固く閉ざされた"繭"は、既に、生気など微量も放ってはいなかった。
「助かるんじゃなかったのかよ…っ!?」
 思わずミカエルに掴みかかったルークを、ミカエルはそのまま受け止めていた。
「ミカエルっ!!」
「確証はないと言ったはずだ」
「そんな無責任な!!あんたがその方法しかないって言ったんじゃないかっ!だから、その方法を選んだんじゃない!!なのに、そんな無責任な言い方があるかっ!?」
 喰ってかかる声にも、ミカエルはルークから眼差しを逸らさなかった。
「方法はあれしかなかった。その方法以外、見殺しにするしかなかったはずだ。助けたかったから、選んだはずだ」
「だからって!!」
「ルーク!」
 その身体を押し止めたデーモンとライデンの腕を振り切らんばかりに、その興奮は納まらない。
「あんたが殺したんだ!エースも、清水もっ!!」
「ルーク、落ち着いてよ!まだ死んだと決まった訳じゃないんだから!清水だって、まだ生きているんだよ!だから呼んでるんじゃない!」
「ライ…っ」
 ハッとしたように息を飲んだルークに、ライデンはもう一度その言葉を口にする。まるで、自分自身にも言い聞かせているかのように。
「生きてるんだよ…だから、早く行こうよ。清水が生きてるんだもの。エースだって、必ず…」
「そうだ、ルーク」
「デーさん…」
 まだ、僅かでも希望があるのなら。
 デーモンもライデンも、それを信じていると言うのに、どうして自分はそれすらも忘れてしまったのだろう。
 その脳裏の過ったのは、かつて失った想い。
 愛しい人。誰よりも、愛していた人。今と同じように、ミカエルの前で生命を失った最愛の母(ひと)……
 彼に見放されることが、何よりも辛かった。助けてくれると思ったのに、見捨てられたことが、何よりも哀しかった。それが今また、ここで繰り返されたのかと思った。
 ルークの頭に過ったそんな思いを察したのか、デーモンはそっとルークの肩を抱き寄せる。
「吾輩たちは、出来る限りのことをした。後は…エースの精神力を信じるしかないんだ。きっと、帰って来る。だから今は、清水に着いていてやろう」
「……うん」
 泣き出しそうになるのを必至に堪え、ルークは小さく頷いた。それを見届けたデーモンは、ライデンを振り返る。
「魔界への扉を開けてくれ。その方が近道だ」
「わかった」
「行くぞ、ルーク」
 魔界への扉を目指して駆け出した二名の背中を見つめ、ルークは僅かにその場に佇んでいるミカエルを振り返る。
「…もし…エースが死んだら…俺は、今度こそあんたを許さないから」
「わたしを殺して御前の気が休まるのなら…御前の剣を受けてやる。案ずるな、逃げはしない」
 ミカエルのその言葉を背中に、ルークも魔界への扉へ向けて駆け出していた。

 三名が扉の向こうに消えたのを見届けたミカエルは、その手で"繭"に触れる。
「…何故…だ…?」
 その表情は、ルークの前では決して見せなかった困惑の表情。そして、その裏のショックもまた、その目に浮かんでいた。
 触れている"繭"から、エースの生命反応は確認出来ない。まるでそれは、突然消えてしまったかのようで。
「…まさか…本当に"消えた"のか…?」
 未知なる状況を目の前にしながら、ミカエルは大きな溜め息を吐き出し、首を横に振った。
 もし、このままエースの魂が帰らなかったら。自分は、またルークに憎まれてしまう。
 見放した訳ではないのに。見捨てた訳ではないのに。そうとしか感じて貰えなかった昔。それを繰り返すのは、ミカエルとて苦痛なことだった。
 もう一つ深い溜め息を吐き出すと、ミカエルは重い足を引き摺るように、天界への路を歩き始めた。

◇◆◇

 "GOD'S DOOR"から彼等が転移して来た先は当然エースの屋敷だった。
 大慌てでその寝室に飛び込むと、ベッドに横たわる清水を結界で護るゼノンの姿が迎えた。
「ゼノン、清水は…っ」
 息を吐く暇もなく問いかけたデーモンの声に、ゼノンは黙ってすっと身体を引いた。その行動で察したのは…清水はもう直、消えてしまうと言う事実。
「傍に…いてあげて」
 自分にはもう、どうする手立てもない。ただ、彼の望みを叶えてあげるのが、精一杯で。
 そんなゼノンの意図を感じたデーモンは、ゼノンの代わりに清水の傍に歩み寄る。他の誰も、近付くことが出来なかったのは…今まで気丈だったデーモンが、一瞬、今にも泣き出しそうな表情を見せたから。
「…清水…」
 小さく呼びかけた声に、目を閉じていた清水はゆっくりとその目蓋を持ち上げた。そしてデーモンを確認すると、その表情は微笑みに変わる。
「…来て…くれたのか」
「あぁ。もう、何処にも行かない。ここにいるから…心配するな」
 そう紡ぐ声が、僅かに震えている。噛み締めた唇は、溢れそうになった涙を堪える為。
 そんなデーモンを見つめ、清水は言葉を紡ぐ。
「俺は…倖せだから。あんたはこうして傍に来てくれた。だから、後はあんたの涙さえ見なければ…」
「清水…」
「エースも…そしてあんたも…地球が滅んでも尚、俺のことを覚えていてくれた。いや、あんたたちだけじゃない。仲魔のみんなが、覚えていてくれた。だから、もう良い。それだけで、倖せだから。だから…」
----泣かないで、くれ。
 すっと伸ばされた指先が、一筋溢れたデーモンの涙を拭う。その触れた一瞬、デーモンはハッとして息を飲んだ。
 これは、本当に清水だったのだろうか。
 不意に過ったそんな意識。だが、今目の前にいるのは、確かに清水だった。その声も、表情も。
「エースは…あんたに返すよ」
 穏やかな声と共に、穏やかな微笑みが零れる。そして。
「…有り難う…」
 微かな声。ゆっくりと閉ざされた瞳は、二度とは開かない。
「清水……」
 もう、生命反応は確認出来なかった。ただ、その倖せそうな微笑みを見つめているのが精一杯で。
「…もう、良いだろう…?帰って…来い。エース…」
 デーモンは小さくそう零し、力のない掌をきつく握り締めた。
「帰って……来てくれ」
 切に願う声に、他の誰も口を開くことは出来なかった。目の前に起こることを、ただ見つめているのが精一杯で。
「エース…」
 もう一度呼びかけた声に、清水の身体が僅かに輝きを纏い始める。そしてその光が堰を切ったように溢れた途端、身体を包んでいた光は強い生命反応へと変わっていた。
 輝きが薄らぐと、デーモンが一方的に握り締めていた掌は、強く握り返す。
 今、目の前にいるのはもう清水ではなかった。白い顔に赤い紋様を戴いた悪魔。
「…消えちまったな…」
 そうつぶやいた声に、デーモンは小さく頷いていた。

◇◆◇

 少し、独りになりたいと言う彼の要望に答え、デーモンを始め、ルーク、ゼノン、ライデンはリビングへと移動して来ていた。
 夕方の色に変わりつつある日差しの輝きを窓辺で見つめながら、デーモンはソファーに座っているゼノンに向け、ゆっくりとその口を開いた。
「いつから…気付いていた?」
 その問いかけに、ゼノンもゆっくりと口を開く。
「…ティムの連絡を受けて、ここに戻って来てから。まさかとは思ったんだけど…デーモンもそう感じたのなら…きっと間違いなかったんだね。デーモンこそ、いつから?」
 問い返され、暫く口を噤んでいたが、向けた眼差しと共に答えを告げる。
「彼奴が消える少し前だ。彼奴が触れた時…もしや、とな」
「そう…。多分、俺が御前たちを呼んだ時には、きっと清水の精神はもうなかったと思うよ。俺は、壊れる音を聞いたんだ。辛うじてその身体をキープしていたのは、その想いの強さ。それが、彼をここに縛り付けていたんだと思う。肉体のみの…精神の伴わない身体(うつわ)として」
 ゼノンが、硝子が割れるような音を聞いた直後、その波動の変化は確実だった。ただ、肉体がそこに残っていたから、その想いを汲んでやりたかっただけで。
「想いの強さ…か」
 清水が消えてしまったのは、事実なのだ。だから、エースが戻って来たとは言え、目の前の現実を手放しで喜ぶことも出来ない。そんな心境には当然なれないのだ。
「あれで…清水は満足だったのかな…?」
 思わず問いかけたライデンの声に、デーモンはソファーへと戻って来る。
「吾輩には、良くわからない。多分、それを感じられたのはエースだけだ。同調していた彼奴にしか、わからないだろうな。清水の本心は…」
「…だよね、きっと」
 溜め息を吐き出しつつ、ルークもそう零す。
 エースは…確かに帰って来た。清水が消えた直後に。
「ダミ様に…何て報告すれば良い?」
 そう問いかけるルークの声に、デーモンも小さな溜め息を零した。
「そのままを伝えるしかないだろう。下手に誤魔化したところで、どうせダミアン様には全部わかってしまうんだ」
 確かに、隠し通せるモノでもない。言葉にしなくても、ダミアンのこと、いつの間にか全てを理解しているのだから。
「…じゃ、早いとこ行って来る。時間が経てば経つ程、言い辛くなるしね」
 その想いにケリを付けるかのように、ルークはソファーから立ち上がる。背中を向けた時、小さく零した言葉。
「…ミカエルにも…連絡入れとくね…」
「…あぁ、そうした方が良いな」
 返事を返すと、ルークは早速歩き始める。その背中に向けて、デーモンは小さく声をかける。
「…悪いな、ルーク」
 ルークは僅かに振り返り、軽く手を上げるとそのままドアから出て行った。
「御前たちはどうする?」
 ソファーに座ったままのゼノンとライデンに視線を向けて尋ねると、最初に返って来たのは大きな溜め息だった。
「まぁ…エースのことは、デーモンに任せるしかないからね。俺たちはゆっくり休ませて貰うよ。ライもそれで良いよね?」
「…うん」
 ゼノンの声に頷いたライデン。確かに、この二名の魔力はもうほとんど残っていないと言うのが現状なのだから。強いて言えば、それはデーモンも然り、であるが。
「じゃあ、そろそろ退陣させて貰うよ。何かあったら、屋敷にいるから連絡して」
「あぁ、御苦労だったな」
「それは御互い様」
 労うように僅かに微笑みを見せるゼノンに、デーモンも目を細める。
「じゃあ、ね」
 ゼノンとライデンも部屋から出て行くと、必要以上に静けさが気になる。
 先程まであった生命が、一つ消えてしまったのだから。
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