聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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楽園追放 1
もう随分長い間足を踏み入れなかった礼拝堂に立ち寄った最大の理由は、"あのヒト"に呼び出されたから。
自らを罪人としての械で押さえつけていたわたしにとってしてみれば、それは酷く不安と感じた。
礼拝堂へ向かう廊下を親友と共に進みながら、わたしの脳裏に過っていたのは昔の記憶。わたしが自ら械を背負った、あの日のこと。
天界の空気が、変わり始めていると感じたのは、その時からだった。
今からもうざっと考えても二~三千年程前のことになると思う。
当時、昇格したばかりで下位三隊の中位。まだ新参の大天使だったわたしは、初陣から幾度目かの戦地に立っていた。
雷帝の機嫌を損ねてしまったのか、その戦は珍しく冷たい雨に見舞われていた。
「ラファエル」
目の前の敵を切り倒した剣に着いた朱色の液体を振り払いながら、背後から聞こえた声に目を向ける。
「無事だったんですか」
同期であり、親友でもあるミカエルの姿に、わたしは僅かに目を細めた。
「そう簡単にやられたら堪らない。それより、御前も気を付けろよ。この雨だ。こっちの方も、かなりの打撃を受けてるらしいから」
「わかってます。こう言う時こそ、慎重に、ですね」
「じゃあ、また後で」
雨の中を駆け出して行くミカエルの背中を見送り、わたしは改めて剣を握る手に力を込める。
正直に言えば、戦いに慣れた訳ではない。まだまだ新米の大天使では、このまま足を引っ張ることにもなり兼ねないのだから、それだけは避けたいと思うのが精一杯なのだ。
ふと気が付くと、前方に敵の姿を発見した。
「…慎重に…ね」
改めて自分に言い聞かせるかのように、わたしはゆっくりと歩みを進める。だが、前方ばかりに気を取られていた所為だ。後方から近寄る影に気付かなかったのは、わたしのミスだ。
「貰ったぁ!」
「…っ!」
振り向いた時にはもう遅く…わたしは、自分の身体を切り裂く刃の冷たさを感じていた。
「…ぁ…」
情けない。そう思いつつも、わたしの意識はそこで途切れてしまった。
遠くで雨の音が聞こえるような気がした。そう思った瞬間から、身体の芯が熱く疼いている。
「…っく…」
思ったよりも重い痛みに、小さな呻き声を零すと…それに返って来た声。
「気が付いたか?」
聞き慣れない声にゆっくりと目蓋を持ち上げると、目の前にいたのは、敵としてしか認識したことのない悪魔。
「…っ!」
慌てて身体を起こしたものの、その痛みに顔を歪める。
「無茶するな。やっと傷口が塞がったばっかりなんだ」
その言葉は、わたしには当然予想外だった訳で…目の前にいた悪魔に対しても、本当に敵なのかと言う疑問さえ覚えてしまった。
「…ここは…」
落ち着いて辺りを見回してみると、どうやら洞窟か何処かのようだ。雨の音が遠くで聞こえたのは、入り口からかなり中に入った場所だったかららしい。
「安心しろ。一応、結界の中だ。天界の気に合わせてあるから、傷の治りも早かった。危うく生命を落とし兼ねない傷だったんだぞ」
初対面とも思えない口調に、わたしの方が呆気に取られてしまった。
自分の身体を見下ろしてみれば、肩から斜めに大きく断ち切られた戦闘服が、血まみれになっている。その下の素肌の傷は、確かに言われた通り、傷が塞がったばかりに見えた。
「包帯を巻いてやれれば良かったんだが、戦線の上にこの雨だろう?生憎、清潔で乾いた布がなかったんだ。まぁ、塞がったんだから文句はないよな?」
「…敵であるわたしに、そこまでしてくれるなんて…貴方は、誰…なんですか…?」
思わず問いかけた声に、悪魔は小さく笑いを零した。
「行きずりの悪魔に、名前を問いかけたって仕方ないだろう?まぁ、あんたは俺を知らないだろうが、俺はあんたを良く知っている。あんた、ラファエルって名前だろう?」
「…どうして、わたしのことを…?」
すっと細められた黒曜石の瞳が、酷く優しく思えて。
「あんたが初陣の時から、ずっと知ってた。俺はずっと…あんたを見て来たんだ」
その意味深な言葉に、わたしはドキッとする。
見られていただなんて、ちっとも知らなかった。今まで敵としてしか認識していなかった、悪魔と言う存在に。
「あんたにとっては、初対面で何言い出すのかと思うかも知れない。でも、俺はずっと抱えて来た想いだ。だからこの戦で、雨の中に倒れているあんたを見つけた時、巡り合わせだと思った。だから、告白する。俺は、あんたが好きだった。一目見た時から、ずっと」
「…そう言われても…」
急にそんなことを言われたら、戸惑うのは当然だろう。
別に、悪魔に対して個人的に敵意を抱いていた訳ではない。ただ、生まれながらにしてそう言う知識を植え付けられていたのだ。だから、悪魔が天使に対して、そう言う想いを抱くことがあるとも思わなかった。
悪魔が…こんなに、優しく言葉を紡ぐと言うことも。
「…たった一度で良い。あんたを…抱かせてくれないか?」
そう問いかけられ、わたしの緊張は既にピークである。だがその反面、彼の真意を問い質してみたいと言う思いに駆り立てられていた。
この後に及んでそんな馬鹿なことを考えているだなんて…それが天使の資質と言われてしまえば、多分それまでのことなのだろうが。
「どうして…です?天使に思いを寄せるだなんて…背徳行為のはず。それを、わかっているでしょう…?」
問い返した声に、悪魔は僅かに眉を寄せた。
「全天使に対してじゃない。ラファエルと言う一大天使に対しての想いだ。だから、天界に情を移した訳でもない。あんた一個人に対しての想いは、魔界を裏切ることにはならないだろう?」
「…貴方は良いです。そうやって、割り切れるのなら。でも、わたしは…そんな簡単なことではないんですよ?」
この悪魔にしてみれば、例え天使に好意を寄せたとしても罪にはならないのだろう。けれど、天界ではそうじゃない。それを…知らない訳ではないだろう。
「…貴方が…わたしを堕天使にして、どう責任を取れると?天界は、堕天使が生きて行けるほど、甘くはないのですよ?」
思わずそう言った言葉に、悪魔は小さく溜め息を吐き出す。
「…悪魔に抱かれたら堕天使だと?それで、全て魔に染まると?それは、誰が判断するんだ?あんたの姿が変わるとでも?こう言う言い方をしたら、あんたは反発するかも知れないが…そんなことは、黙っていれば、誰も気が付かない。違うか?」
「…それは…」
確かに…それくらいでは、見た目は何も変わらない。
見た目での判別がつくとなると…天界人と悪魔の間に生まれた子供か…若しくは、自分の中の"悪しき心"が、目覚める以外にはないのだろう。
それ以外で、見た目だけで堕天使だと判別するのは無理、だろう。
悪魔の言う通り…黙っていれば、誰も気が付かない。それは、正直事実なのかも知れない。
小さく、溜め息を吐き出す。
困惑するわたしの姿に、悪魔はゆっくりと言葉を紡いだ。
「…あんたは、何も変わらない。別に、あんたが俺に惚れ込んで、天界を捨てようと思っている訳じゃないんだ。俺が、一方的にあんたに惚れただけで…あんたの心は、天界人のままだ。だから…」
「…もう、良いです」
何だか、上手く言い包められてしまったようだ。
でも…自分を護る為なら、多分、ここで拒否するだけで良い。それで、天界人としてのわたしのプライドも体裁も護る事は出来る。
けれど…ならば、わたしの良心は…?
この悪魔に生命を助けられたのは事実。けれど、わたしはその恩をどんなカタチで返せば良いのか…。
色々と考えてしまったわたしの顔を見て、悪魔は小さく笑った。
「ぐるぐる考えてるな。でもまぁ…俺も唐突過ぎたな。天使の中の悪魔像は、余程捻くれてるんだな。悪魔だって、誰かを純粋に好きになるし、愛おしいと思う。天使だからって、全てを忌み嫌っている訳じゃない。でも、あんたたちに同じ感情を求めるのは無理なんだとわかった。だから…もう、良い」
唐突に…そう、結論を突きつけられて、やっぱり混乱してしまう。
「…何で…ですか?急に、そんな風に結論付けして…」
混乱しながらも…わたしは、そう問いかけていた。
「だって、しょうがないだろう?あんたは、俺に応えてくれる気はないんだろう?結局は、自分の保身に必死になる。悪魔になんか手を出されたら、あんたの将来は絶望的なんだろう?別に俺は、あんたを取って喰おうって訳じゃない。あんたが好きだから…無理強いはしない。言ってみただけだ。だから、諦めは着いた。悪かったな、変なこと言って。だから…忘れてくれ」
そう言われ…胸の奥が痛んだ。
「…勝手なことばっかり言って…」
思わず…そう、口を突いて出た言葉。
わたしは、悪魔の顔をじっと見つめる。
白い顔に、蒼い紋様を抱いた悪魔。そしてその眼差しは吸い込まれそうなくらい、深い黒曜石。
その眼差しの前…もう、何をどうして良いのかわからなかった。
ただ…その表情が、とても悲しそうに見えて。
「…心を置き去りにしたまま、どうしろと…」
小さくつぶやいた声に、悪魔はそっと笑った。
「心が着いて来ない方が良いんじゃないのか?心が伴ってしまったら…あんたは一生苦しむだろう?だったら、そんなことは何も考えなければ良い。気が狂った悪魔に、生命を助けられた。ただ、それだけだ。だから…俺のことはもう良いから」
そっと差し伸べられた手は、わたしの頬に触れる。
「…御免」
小さなつぶやきに、わたしの思考は止まった。
「…どうして…こんな悪魔に、言い包められてしまったんでしょう…」
「…ラファエル…?」
怪訝そうに眉を寄せた悪魔に、わたしは小さな笑いを零した。
「貴方に生命を助けられたことが…わたしにとって、良い事だったのか、悪い事だったのか…今でもわかりません。生命が助かった代わりに、抱かせて欲しいだなんて頼まれて…それに絆されて…本当に、馬鹿…」
本当に…馬鹿だと思う。もしかしたらここで…わたしの、出世の道が閉ざされるかも知れないと言うのに。それなのに…この悪魔を、見限ることが出来ないなんて。
わたしは、頬に触れられたままの悪魔の手をそっと握った。
そして。その決断をした。
「…誰にも…言わないで下さい。魔界の貴方の仲魔にも…天界の、誰にも。わたしは…まだ、上に行くことを諦めた訳じゃない。だからこのまま…口を噤みます。そして、貴方にもそれを強要します」
「…口を噤むさえすれば…俺の願いを、聞き入れてくれると…そう言う事か?」
思わぬ展開に、悪魔の方が面食らったような表情を見せていた。まぁ…その気持ちも、わからなくはない。自分の決断に、一番驚いているのは…このわたしなのだから。
「心は、置いていきます。わたしは…例え身体を許したとしても、貴方を、好きにはならない。それでも良いのですね?」
正直、そう言ったところで不安は残っているのだ。その最大の理由として…それが初めての経験であるから。
もし、他の天使なら当然拒否しているだろう。それを受けようと思ったのは…彼の瞳に、わたしが尊敬するヒトと同じ光を見たからかも知れない。
色こそ違うものの、その何処か哀しげに光る瞳が、わたしにその決断をさせたのかも知れない。
「勿論。そこまでは求めない」
そう言って、小さく笑った姿は…とても、悪魔とは思えないくらい穏やかで。優しくて…。
「…生命を、助けてくれて有難うございます」
小さくつぶやいたわたしの声に、悪魔はそっと、顔を寄せた。
「生命を繋いでくれて…本当に良かった」
悪魔がそうつぶやいた直後、身体が引き寄せられ、抱き締められる。そして、傾けられた頬を寄せ、わたしの首筋に触れた唇。
「…っ」
思わず首を竦めたわたしの行動に、悪魔は何かを感じ取ったのだろう。くすっと小さな笑いを零す。
「大丈夫。唇には触れない。天界の仕来りでは、それは生涯の伴侶にだけ、だろう?それは護ってやる。悪いようにはしない。俺に任せて、力を抜いていれば、そのうち終わる」
その言葉通り、わたしはただ彼に任せ、その時間が過ぎるのをただ耐えるしかなかった。
いつの間にか、雨はやんでいた。ぐったりと横になったまま、ぼんやりと洞窟の天上を見上げていたわたしの傍に、もう悪魔はいなかった。
やり場のない想いをどう消化しようかと思案に暮れながら、ゆっくりと身体を起こす。剣で受けた傷は殆ど治っているが、奇妙な感覚が重く残っている。
悪魔がここを去る前、背を向けてわたしに残した言葉が、耳の奥に残っていた。
『二度と逢わないし、迷惑もかけない。あんたのことは、一生口を噤むから』
悪かった。そして…有り難う。
その最後の言葉に、わたしは言葉を返すことが出来なかった。
わたしは、自ら罪を背負ったのだ。堕天使と言う械を、自ら受けたのだ。
だが、それを知っているのはわたし自身と、あの悪魔だけ。
彼が口を割らなければ…わたしが誰にも口を割らなければ、気付かれずに済むかも知れない。だが、その為にはわたしがそれを秘密にしていけるだけの精神力が必要なのだ。
「…自分で…決めたことですからね。あの悪魔の所為じゃない…」
自分自身にそう言い聞かせるかのようにつぶやき、やっとで腰を上げる。だが歩き始めた靴先に、何かが当たったような気がして、再び足を留める。
「…?」
何かを蹴っ飛ばしてしまったようだ。屈んで良く見れば、それは紋章からしても、魔界の情報局の軍章だった。思わず拾い上げ、そこに刻まれた文字を見つめる。
「…エル=クライド…」
最後まで、名前を口にしなかった悪魔。けれど、状況からして、これはあの悪魔のモノであることに間違いはないだろう。
「…馬鹿な悪魔…こんな大事なものを、落として行くだなんて…」
その言葉と共に、小さな笑いが零れる。
本当に馬鹿だったのは…どっちだったのか。否、どちらと決めることではない。馬鹿なのは…御互い様。
もう、二度目はない。
それは、自分自身への警告。
その証として、わたしはその軍章をそっとポケットに忍ばせた。そして、本拠地としている本部がある場所へと、歩き始めた。
わたしが本部に着いた頃には、もうすっかり日も暮れて、辺りは薄闇に閉ざされていた。
疲れ果てた重たい足を引き摺るように歩いて来たわたしを最初に出迎えてくれたのは、ミカエルだった。
「ラファ!今まで何処にいたんだっ!いつまで経っても連絡はないし、帰って来ないし…心配してたんだぞっ!?」
かなり心配をしてくれていたのだろう。わたしの格好を見て、青ざめている。
「…御前…大丈夫か…?」
そう言われ、思わず自分の格好を確認してしまった。
肩から斜めに大きく断ち切られた、血まみれの戦闘服。そして、塞がってはいるものの、まだピンク色の傷が生々しかった。流石に、自分でもどうかと思う格好だった。
「…御免なさい。貴方と別れた後、敵にやられて…でも、暫く休んでいたので、傷は塞がりました。もう、大丈夫です」
そうは言ったものの、怪我を負った上に、悪魔相手に余計に体力を使い、その挙句にかなりの距離を歩いて来たのだから…流石に、体力は限界だった。
自分の体重を支えることも間々ならず、わたしは思わずミカエルに凭れかかってしまった。
「心配、かけたみたいですね…」
「…無理するな。生きて還って来れば、それで良いんだ」
安堵の溜め息を吐き出したミカエルは、そっとわたしを抱き締めてくれた。その暖かな温もりに…ふと脳裏を過ったのは、あの悪魔。
もう二度と、逢うことがなければ良いのに。
そんなことを思っていると、もう一つの声が届いた。
「御帰り、ラファエル」
その声にハッとして顔を上げる。ミカエルの肩越しに見えたのは、わたしたちの部隊の指揮官である中位三隊の上位、主天使(ドミニオンズ)。天界人にしては珍しい深い紺碧の瞳を持つ彼は、わたしやミカエルがずっと尊敬していたヒト。
「ルシフェル様…」
口にし慣れた名前を紡ぐと、彼は僅かに瞳を細めた。
「生きて帰って来たようだな。上出来だ。今日は、ゆっくり休むと良い」
「…はい…」
小さく答えた声に、彼は再び目を細め、小さく微笑んだ。
その瞳は、あの悪魔と同じ…深くて、何処か哀しげな色を称えていた。
ずっと…憧れていたはずなのに…その時はどう言う訳か、背中がぞくっとした。
この眼差しがある限り…わたしは、自分の罪を、忘れられないのだと。そう、確信していた。
長い廊下を進みながら、ぼんやりと思い出していた過去の記憶。どうして今頃になって、そんなことを思い出してしまったのだろう。思い出すまいと…忘れようと、必死になっていたはずなのに。
「…ラファ?何処まで行くんだ?」
不意に呼び止められ、わたしは足を留める。気が付けば、礼拝堂の扉は疾うに通り過ぎているではないか。一緒に歩いていたはずの親友ミカエルは、扉の前で怪訝そうにわたしを見つめている。
「…あぁ、御免なさい。ちょっと、考え事を…」
ちょっと肩を竦め、笑みを零したわたしは扉の前まで戻って来る。そして気を引き締めると、その扉をノックする。
「失礼します」
重い扉を押し開けると、祭壇に向かう背中が見えた。
「ルシフェル様、御呼びですか?」
ミカエルが声をかけると、その背中はゆっくりとこちらを向く。
紺碧の瞳が、小さな笑みを称えていた。
「あぁ、ミカエルにラファエルか」
まるで、身体の芯まで染み込んで来るような声に、思わず小さく吐息を吐き出す。
あの当時、部隊の指揮官を務めていた主天使(ドミニオンズ)であった彼は、今では天界で尤も高い地位の熾天使(セラピム)である。そして付け加えるならば、ミカエルもわたしも、大天使から二階級ほど昇格して中位三隊の下位、能天使(パワーズ)の身位にいた。
「どうした?顔色が良くない」
わたしの顔を覗き込むように、彼の眼差しが届く。
「いえ…別に」
思わず…と言うか、反射的にその眼差しを伏せてしまう。
正直、わたしは彼の紺碧の眼差しが苦手だった。勿論、ずっと尊敬して来たヒトだ。それは今でも変わりない。
ただ、苦手なのはその眼差し。あの悪魔を思い出させる、何処か哀しげに光る瞳。まるで、ヒトに言えない何かを背負っているかのようで…その瞳に見つめられる度、わたし自身も己の械を思い出すのだ。
幾度も、忘れようとしていたあの罪を。
「何か、御用ですか?」
わたしの様子を伺いつつ、ミカエルが問いかける。
「…まぁ、な。とにかく場所を変えよう」
そう言うなり、彼は礼拝堂を横切り、壁際にあるもう一つの扉へと歩み寄った。そこは熾天使の執務室と繋がっている。
彼の後に着いて、わたしたちはその執務室を訪れた。
相変わらず雑然とした執務室に変わりはないのだが、その雰囲気は何処かいつもと違っているような気がした。何処がどう違うのかと問われれば、それは答えようがないのだが…
執務机の椅子に腰を下ろした彼は、わたしたちをソファーへと促すと、徐にその口を開いた。
「ついさっき、一名の悪魔が天界へ飛び込んで来たと報告があった。御前たちに、その悪魔を取り調べて貰いたい」
「悪魔…ですか?」
怪訝そうに眉を顰たミカエルに、彼は言葉を続ける。
「そうだ。それも、たった一名だ。武器を持っている訳でもなく、目的はわからない。だから、御前たちに調べて来て貰いたいと、そう言うことだ」
「そう言うことだ、と言われても…なぁ、ラファエル」
本来、悪魔の取り調べなど、能天使の管轄ではない。多分、ミカエルがわたしに同意を求めて来たのは、そんな理由で、だろう。
だがわたしにしてみれば…そんなことよりも、もっと気になることが一つ。
たった一名で、武器も持たずに乗り込んで来た悪魔だなんて。命知らずと言うよりも、それはある種の狂気に過ぎない。その狂気が、わたしに警笛を鳴らしているのは言うまでもない。
「…狂気の沙汰…ですか…?」
思わず問いかけた声に、ルシフェルは小さく頷いた。
「恐らく…な。然程危険はないだろうが…下級天使では何かあった時に回避出来ない。管轄外だと言うことはわかっている。今回に限り、だ。宜しく頼むぞ」
「…御意に…」
彼の強引さは、今に始まったことではないが、改めてそれを感じさせる彼の口調に、わたしたちは半ば強引にその役割を言い付けられ、仕方なくそれに同意した訳だ。
捕えられた…と言うより、今の状況では拘束されているだけなのだが、その悪魔が送検されると言うので、それを傍観しに訪れた場所は、もう既に多くの天使でざわついていた。
「…それにしても、全く唐突だな。幾ら、危険回避の為だとは言え、わたしたちが悪魔の取り調べだなんて、ルシフェル様も何を考えているんだか…」
呆れた、と思える溜め息を吐き出すミカエル。
「受けてしまったんですから、仕様がないでしょう?取り調べが終われば、それで御役御免じゃないですか」
「まぁ、そうなんだが…」
まだ何処か納得いかないと言う表情を見せるミカエルだが、断ることが出来る訳でもなく。我々に、拒否権はないのだ。
溜め息を吐き出すミカエルを前に、わたしが小さな笑いを零した刹那。不意に、周囲のざわめきが止まる。
「…来た」
静かな中、聞こえたのはミカエルの声だった。目の前の天使たちの間に、僅かに見えたのは漆黒の髪。そしてその顔が僅かにこちらを向いた。そのほんの一瞬…黒曜石の瞳がわたしを捕えたように思ったのは、気の所為だろうか。
「……っ」
思わず息を飲む。その小さな気配はミカエルにも届いていたようだった。
「…知ってるのか?」
囁くような声に、わたしは答えることが出来ない。
それは、見間違えるはずなどない。あの時の悪魔である。
二度と逢うことはないと思っていただけに、そのショックは予想外で。
「…ラファエル?」
悪魔の姿は、もう見えなかった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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