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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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幻月 2
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
4話完結 act.2

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◇◆◇

 ラファエルがルカの部屋から出ると、そこには心配そうな表情を浮かべたシーリアとレイが立っていた。
「…ラファエル様…申し訳ありません。ルカが、あんなこと…」
 全て、聞いていたのだろうか。俯いたシーリアの顔に浮かんでいたのは、とても残念そうな色。
 そんなシーリアの肩をそっと叩き、ラファエルはそのドアの前から離れる。
「…今日は、もう帰ります。貴女が、気に病むことではありません。ルカは、しっかり成長しているじゃないですか。わたしたちのやり方に、異議を唱えることが出来るようになったんですから。貴女の育て方は、間違っていませんよ」
「でも…まさか、ラヴェイユと…」
「…それに関しては…我々のミスです。本当に、申し訳ありません。でも…黙っていてあげてくれませんか?彼が、どんな気持ちでラヴェイユに救いを求めたのかを…察してやって下さい」
 ラファエルはそれだけ言うと、にっこり笑って玄関のドアを出て行く。
「…今夜は…ルカを、ゆっくり休ませてやって下さい。我々は今日は別荘に泊まるので、明日帰ります。王都へ帰る前に…もう一度、顔を見に来ます」
 レイは、不安そうな表情を浮かべたままのシーリアにそう声をかけ、小さく微笑んだ。
「…わかりました。申し訳ありません…」
「我々は、大丈夫です。貴女も、ちゃんと休んで下さいね」
 頭を下げるシーリアの肩を軽く叩くと、レイも玄関を出て行った。
 残されたシーリアは…溜め息を零すだけ、だった。

 レイが外へ出ると、ラファエルは数メートル先で立ち止まっていた。
「…御待たせしました」
 ラファエルに追い付くと、ラファエルは空を見上げていた。
 満天の、星空。王都よりも沢山の星が見える。
「…何処かで…間違えたんでしょうか…?」
 ポツリと、つぶやいた言葉。
「…ルカのこと、ですか?」
「わたしの、生き方ですよ」
「…ラファエル様…」
 大きく溜め息を吐き出したラファエル。その顔色は、とても悪く見える。
「自分の生き方が間違っていることは、わかってますよ。でも…それに、ルカを巻き込んでしまったのではないかと…今でも、後悔してます。"彼の悪魔"の看病など…彼女に、任せるべきではなかった。ミカエルが、彼女を連れいくと聞いた時点で…反対していれば良かった。そうすれば…ルカは、"生まれることはなかった"」
 吐き出された言葉は、とても重い。とても…シーリアやルカに、聞かせられる話ではない。
「…今になって…後悔したところで、どうにもなりません。それは、貴方がいつも言っているでしょう?過ぎたことを悔やむな、と」
「そう言っていなければ、わたし自身が過去に押し潰されるから、ですよ。わたしから後悔を取ったら、何も残らない。ルカのあの"御守り"を見る度に、胸が痛いんです。ずっと…"彼の悪魔"に見張られているようで」
 いつもの柔らかな姿とは全く違うラファエルの姿。
 とても苦しそうで…ヴァイオレッドの眼差しは、酷く落ち込んでいる。
 けれど…レイが見て来たラファエルは、長いことこの姿だった。だからこそ…今の、気丈で柔らかな姿が偽りなのではないかと、日々思うくらいで。
「…貴方には、わたしがついています。貴方の罪を…一緒に背負う為に、わたしがいるんですから」
 そうつぶやいて、ラファエルの手をそっと握る。
「ルカのことは…ミカエル様にも相談しましょう。貴方が独りで抱えることではありません。これからどうするべきなのか…なし崩しには出来ない問題ですから」
 今は、そう言う事しか出来ない。レイにとって…一番護るべき存在は、ラファエルなのだから。
「貴方も、ゆっくり休んで下さい。わたしが…傍に、いますから」
 そっと、ラファエルを抱き寄せると、レイは耳元でそう囁く。
「…貴方も、馬鹿な人ですね。わたしなんかに構わなければ…もっと、真っ当な道があったのに」
 くすっと、ラファエルが笑った。
「貴方に出会わなければ…つまらない人生でしたよ、きっと」
 今まで、幾度も言われた言葉に、レイは目を細める。
 もしも…出逢わなければ。今の全てが、変わっていた。自分の生き方も…ラファエルの、生き方も。
 何も、間違いではない。素直にそう思えたら…どれだけ良かっただろう?
 今は、答えなど何処にも見えなかった。

◇◆◇

 ラファエルが出て行ってから…どれくらい経った頃だろう。俺は、ただ黙ってベッドに横たわっていた。
 ラファエルを傷付けたことは、確かだと思う。でも…俺もまた、自分自身が向き合わなくてはならない壁を再確認したような気がしていた。
 俺の未来は、何も見えない。それは確かなことだけど…ミカエルとラファエルは…本当に、どんなつもりで、俺に勉強と剣術を叩き込んだのか。それが、謎のままだった。
 俺は…ミカエルとラファエルに…何を、求めたんだろう…?
 いつの頃からか…ミカエルは、俺に視線を向けていても、俺を見てはいないような気がしていた。
 ミカエルが見ていたのは、母様と…そして、俺ではない"誰か"。それが…ずっと、引っかかっている。
 ラファエルにしたって…ホントに、何を考えているのかわからなかった。
 でも…本当は、俺たちには言えない何かを、ずっと抱えていたんじゃないかと…今なら、そう思う。
 だからこそ…いつも、何処か醒めた眼差しで俺を見ていたのではないか…と。
 大きく、溜め息を吐き出す。
 その夜は…殆ど、眠れなかった。

 翌朝。
「ルカ、起きてる?御飯、出来てるけど…」
 控えめなノックの音と共にかけられた、控えめな声。
「…起きてる」
 気が重い。それでも…じっと部屋の中にいても、何にも変わらない。だったら…外に出た方が良い。
 俺はベッドから起き上がると、ドアを開ける。そこには…いつもと変わらない、母様の姿。
「夕べ食べなかったから、御腹空いたでしょう?」
 にっこりと微笑む母様は…ラファエルから、何か聞いたのだろうか?
 それを問いかけられないまま…俺はテーブルに着き、朝食に手をつける。
 それは、まるで砂を噛むようで…酷く、味気ない。
 結局、余り喉を通らないまま、俺は食事を終えた。
「散歩して来る」
 母様の返事を待たず、俺は外へと出た。

 ルカが散歩に行くと言って出て行った背中を、シーリアは溜め息で見送っていた。
 夕べ聞いた話は…ルカには、何も言わなかった。ただ…酷く、堪えているのだろう。今朝は食事も殆ど口にせず、出て行ってしまった。
 シーリアは片づけをしながら、溜め息を一つ。
 何もかも…はっきりと話してしまった方が良かったのだろうか?
 シーリア自身も、どうして良いのかわからない。
 そんな溜め息を吐き出した時、ドアがノックされる。
「はい」
 ドアを開けると、そこにはラファエルとレイの姿。
「おはようございます」
 にっこりと微笑むラファエル。けれど、その表情もほんの少し、疲労の色が見えた。
「おはようございます。ルカは…先ほど、散歩に出てしまって…」
 シーリアは申し訳なさそうにそう言葉を返す。
「そうですか。ならば、このまま帰ります。ルカも、今はわたしの顔を見るのは気まずいでしょうしね。今後のことは…ミカエルとも、相談します。多分…近いうちに、ミカエル自ら来るでしょうけど」
 ラファエルは小さく笑いを零す。
 ミカエルのことだから、近いうちどころか…下手をすれば、話をしたその日の内にやって来そうな気もするのだが…まぁそれは仕事との兼ね合いもあるのだから、断定は出来ないが。
 心配そうな表情のままのシーリア。そんな彼女に、ラファエルはそっと声をかける。
「貴女に…悩むな、と言うのは酷な話ですが…貴女しか、ルカの味方はいないんですよ。ですから…貴女には、しっかり構えていて頂きたい。無理は承知で御願いしています。もう少しだけ…我慢してください」
「…大丈夫です。私は…何があっても、あの子を護ります。ですから…ラファエル様も、ご無理をなさらないで」
 シーリアはそう言って、レイに視線を向けた。
「ラファエル様が、あまりご無理をなさらないように…御願いします」
「わかっていますよ。わたしは、ラファエル様を御護りするのが役目ですから」
 くすっと、小さく笑ったレイ。その表情はとても優しい。
「ルカを、頼みますね」
 ラファエルは小さくそう言うと、踵を返す。レイもその背中を追って踵を返す。
 幾度となく、吐き出される溜め息。それは…誰とも限定は出来ない。
 今は、そうすることでしか…胸の痛みを逃がすことが出来ないから。

◇◆◇

 王都へ戻って来たラファエルとレイは、そのまま真っ直ぐにミカエルの執務室にやって来ていた。
「ルカはどうだった?」
 ラファエルの報告を待っていたミカエルは、その姿を見た途端そう声をかける。
「…まぁ…色々ありますよ」
 溜め息を吐き出しつつ、ラファエルはソファーへと腰を下ろす。
「色々…?」
 怪訝そうに顔を顰めたミカエル。
「順を追って話します」
 ラファエルは、昨日からの事を、順を追ってミカエルに説明した。
 ルカと、ラヴェイユのこと。それからルカの、自分たちへ対する胸の内。そして…シーリアのこと。
 全てを聞き終えた時、ミカエルは溜め息を吐き出していた。
「…成程ね…ルカの"気"が変わって来たのは、ラヴェイユとの関係の所為…か。で、我々に関する余計なことも植えつけられたのかな…?」
「まぁ…火のない所に煙は立ちませんから。強ち、間違った解釈ではないでしょうね。事に…貴方に関することは」
「…ラファ…」
 困ったように、眉を寄せたミカエル。
 けれど、ラファエルの表情は変わらない。
「間違っていないでしょう?貴方は、深入りはしないまでもシーリアに好意を抱いているし、ルカの中に"あの方"を見ている。それを、見抜かれていただけの話」
「…馬鹿な事を…」
 そんな言葉と共に、溜め息を零す。
「…ルカは…"あの方"に良く似て来ました。正直に言えば、わたしは…ルカと会うのが辛いですよ。彼に、罪はありません。でも…過去の呪縛は、簡単には消えてはくれません。彼を、護りたい気持ちは良くわかります。でも、ルカが"あの方"の血を引いている以上…能力が覚醒することは間違いないんです。彼に…全てを伝えることが出来ないことはわかっています。でも…だからと言って、全てを抑えることだけが正しいのですか?我々は…幾ら頑張ったところで、彼の父親にはなれません。だったら…別の形で、きちんと彼を見ていかなければならないのではないのですか…?それが…わたしたちの、"ルカ"に対する償いではないのですか?」
 そう、言葉を紡ぐラファエルの表情は、とても苦しそうで。
 今までのラファエルの姿をわかっているからこそ…ミカエルも、ラファエルにそんな顔をさせてしまうことが辛いのだ。
 ミカエルは、再び溜め息を吐き出す。
「…ルカに…真実を見せろ、と?」
 問いかけた声に、小さく頷きが返って来る。
「王都で、何を感じるか…それは、ルカ次第です。彼の実力があれば、働くには困ることは何もありません。ですが…王都に来ることがきっかけで、覚醒することも考えられます。寧ろ、その可能性の方が高いかも知れません。それでも…それが、彼の本来の進むべき道であると…わたしたちが理解していなければ、この先どうにも進めなくなりますよ」
「…わかってはいる。ルカが生まれた、あの日から。だが…そうしたら、シーリアはどうなる?ラヴェイユにルカの存在が知られてしまったんだ。ラヴェイユの性格を考えれば…シーリアは、妹に裏切られることになるんだぞ?ルカの覚醒を邪魔しないのであれば、我々にだって…」
「それは、貴方の保身の為の心配、ですか?」
「…ラファ…」
 いつになく、キツイ言葉をミカエルに投げかけたラファエル。
「わたしは、シーリアからもルカからも、恨みを買うであろうことは覚悟していますよ。元を糺せば全て…わたしの、責任ですから。逃げも隠れもしません」
「…ルカとシーリアのことは、御前の責任じゃない。それは、わたしの責任だろうが…」
 ミカエルはそう言葉を零す。
「わたしだって、責任逃れで言っている訳じゃない。わたしの封印が一生モノではないことはわかりきっているんだ。いつかは、そう言う日が来る。それは最初からわかってた。恨みを買うことが怖いんじゃない。わたしは…ルカの生命を護りたい、それだけだ」
「だったら、尚更です。我々は、彼が生きて行く為に最低限必要な学力と、技術を教えました。あとは、どんな結果になろうとも…彼を、信じることです」
「………」
 大きな溜め息が零れる。
 ラファエルが言うことは尤もであり、ミカエルに反論の余地はない。
 ルカに剣術を教えたのも、勉強を教えたのも、いつかそれが彼の命を救うことになると信じて。それが…彼等にとってのルカへのせめてもの償いとして。
 勿論、それがどんなにルカの為だと言っても、それは言い訳にしかならない。いつかは…ルカに、恨まれる日が来る。それはわかっていた。けれど…そんな日が来なければ良いと思ってしまうことも、なくはなかった。
 全ての元凶など…誰が、と決められるモノではない。けれど、苦しんで来た時間は…ラファエルの方が、はるかに長い。それでも、今こうして自分の傍にいてくれる。大切な片腕として…。
 だから、これ以上傷付ける訳には行かない。
「…わかった。まぁ、急にどうこう出来る事ではないからな。まずはルカと話をして来よう。一度ルカを王都へ呼んで、出方を見る。それで良いな?」
「…良いですよ」
「それで…だ。ここから先は、御前は関わるな。後は…わたしの仕事だ」
「…ミカエル…?」
 不意にそう言い出したミカエルの言葉に、今度はラファエルの方が怪訝そうに眉を寄せた。
「今後…ルカのことには関わるな。これ以上、御前が傷つく必要はないし、責められる必要もない。ルカが覚醒するにしても…わたしが、施したことだ。恨まれるならわたし一人で十分だしな」
「でも…」
「わたしが施した術の責任は、わたしが取る。まぁ、最後の美味しいところだけ持って行きやがって…とでも思っていてくれ。良いな?」
 そう言って笑ったミカエルを、ラファエルは思い詰めた表情で見つめている。
 その表情の意味するところは、ミカエルにもわかる。最終的に、ミカエルが全責任を背負うつもりでいることを、不服としている。
 全ての罪は、自分にある。ラファエルは、そう思っているから。
 勿論、ミカエルはそんなことでラファエルを責めたことはないし、責めようと思ったこともない。寧ろその反対で、ラファエルを護らなければ、と言う気持ちの方が大きかった。
 けれど今は、ラファエルにはレイがついている。だから、ラファエルのことはレイに任せておけば大丈夫。そんな気持ちもあったのだろう。
「…わたしは…これでも、総帥だよ。全ての責任を取るのは当たり前だろう?ルカのことに関してもそうだ。その能力を封印をしたのもわたしだし、ルカには何も告げるなとシーリアに口止めをしたのもわたしだ。ルカに王都のことを何も教えなかったものわたしだ。ほら、最終的には全部わたしだろう?だから、御前はこれ以上手を出すんじゃない。御前が責任を取るよりも、わたしが責任を取る方がずっと簡単なんだよ」
「だからって…もし、貴方の身位に傷がつくようなことがあったら…?」
「さっき、保身の為の心配か?って聞いたのは、何処の誰だ?」
「それは…そうですけど…」
 ラファエルの心配そうな表情を和らげるように、ミカエルはにっこりと微笑む。
「わたしのことは、心配するな。ルカが…ちゃんと生きていけるように、手筈は整える。だから、全てが終わるまで、御前は自分の仕事をしていれば良い。レイ、ラファエルが手を出さないように、ちゃんと見ていろよ」
 そう言ってミカエルは、ドアの前に立っていたレイに視線を送る。
「…御意に…」
 レイはそう返すと、小さく頭を下げる。
 勿論、レイが口を挟める問題ではない。それは百も承知であるし、何より…主たるラファエルが安らげる方向であれば、異論はないのだ。
「それでは、話はこれでおしまいだ。今日は帰って、ゆっくり休むと良い。レイ、頼んだぞ」
「…畏まりました」
 まだ何か言いたそうな表情を浮かべていたラファエルであったが…ミカエルにここまで言われてしまっては、もうなす術もない。
「…わかりましたよ。では…後は、黙って見守らせていただきます」
 溜め息と共に立ち上がったラファエル。
「あぁ、そうしていてくれ」
 くすっと笑いを零すミカエル。その姿に、ラファエルはもう一つ溜め息を零すと、レイと一緒に執務室を出て行った。
「…さぁ、これからどうなるか…」
 先の見えない未来。その不安は、ミカエルも同じこと。ただ…ミカエルには、他の者よりもほんの少しだけ…道は、見えていたのだった。

◇◆◇

 俺とラヴェイユのことがレイからラファエルにばれてから…一週間程経った。
 その間、母様は何も言わない。俺も、特に何も打ち明けない。つまり…微妙な空気のままの、気まずい一週間だった。
 その日も俺は、気まずさから逃れるように、湖へとやって来ていた。
 あの日から、ラヴェイユもここへは来ない。俺は…完全に一人きり、だった。
 畔に寝転び、ただ、空を見上げていた。
 俺は…どうなるんだろう…?
 考えたところで、答えは見つけられない。それでも、色々なことを考えてしまう。
 そんな自分が嫌で…溜め息を吐き出す。
 と、その時。
「どうした?悩み事か?」
「……っ!」
 突然顔を覗き込まれ、びっくりして起き上がる。すると、そんな姿に笑い声が零れる。
「ぼんやりし過ぎだぞ?」
「…ミカエル…」
 遂に、ミカエルが来てしまった。
 ふと、そんな思いが過ぎる。
 表情を硬くしたルカ。だが、ミカエルは笑いながらルカの隣へと腰を下ろした。
「そんなに警戒する必要はあるまい?別に、御前を取って喰おうって言う訳じゃないんだから」
「…だって…」
 その先の言葉が続かない。思わず顔を伏せた俺を、ミカエルは笑った。
「まぁ…ラファエルから色々と聞いたから、御前の気持ちはわかるけれどな」
「………」
 俺は、顔を伏せたまま。だから、ミカエルがどんな顔をしていたのかはわからない。でも…その声は、いつもと同じで…とても、優しい。
「何から…話して良いのか、色々考えたんだがな…ラヴェイユとの事は、やはり禁忌なんだ。だから、金輪際、関わるんじゃない」
「…処罰は?ラヴェイユは、ガブリエル様に知られたら処罰されるんでしょ…?俺も…何かあるんじゃないの…?」
 顔を伏せたまま問いかけた声に、小さな笑い声が零れる。
「確かに…ガブリエルは、道を外れたことが大嫌いだ。だから、それなりの処罰はあるだろう。だがな、ガブリエルは今、遠征中でな。まだ当分、報告は出来そうにないんだ。ガブリエルが帰って来る頃には…忘れてしまっているかもな。それに御前に至っては、天界軍には属していないからな。処罰の仕様がない」
「…ミカエル…」
 思わず顔を上げた俺に…ミカエルはその声とは裏腹に、とても真剣な表情を見せた。
「昔から、天界は規律が厳しかった。わたしやラファエルは、その中で育って来たから、その罪の重さは重々承知だ。だが今の世代には、禁忌だなんて古い考えだと言われるんだ。禁忌の一つや二つ犯したところで、何の影響もない。まぁ、事と次第によってはそう言う事もある。だが…我々の生態系を護る為に、ある程度の規律は必要なんだ。こんなところで、まさかそんなことが起こっているだなんて、わたしもラファエルも…勿論、シーリアも、思っても見ないことだった。だが、きちんと教えなかった我々にも落ち度があったんだろう。だから、御前には厳重注意だけだ。禁忌を犯す、と言うことは…自分自身も含め、周りの者を傷付ける。それを、忘れるな」
「……御免なさい…」
 ミカエルの言葉はとても重くて。でも…周りを傷付けたと実感したのだから、その言葉は間違ってはいない。
 でも…すっきりしないのは。
 小さく、溜め息を吐き出す。
「…俺…ラファエルを傷付けた…。言わなくても言い事を言った…」
 ポツリと零した言葉。するとミカエルは小さく笑いを零すと、俺の肩をそっと抱き寄せた。
「ラファエルは、御前が言うことは尤もだ、と言っていたよ。傷付くと言うことは…我々が、御前を甘く見ていたから、だろうな。御前なりに、真剣に考えていた結果だろう?我々は、御前がまだ小さな子供で…将来のことなど、深くは考えていないと思っていたんだ。それに関しては、我々の責任だ。御前に、辛い思いをさせてしまって、悪かったな」
 ミカエルの謝罪は…ちょっと、胸が痛かった。
 俺は…この人たちに、何を求めていたんだろう。その思いが、再び甦って来る。
「…違う。俺が今悩んでいることは…俺が、自分で撒いた種だから」
 今まで、何も問わなかったのは…はっきり言われることが、怖かったから。
 俺を育てたのは…母様の気を引く為。
 俺は…必要ないのだと。
 そう言われたら、俺は…
 大きく、息を吐き出す。
 そう。俺がこの人たちに求めていたのは…"愛されること"。
 でも、ミカエルもラファエルも、俺の親じゃない。母様の姿を見ていれば、血の繋がりがないと言うのはわかっていた。でも、それでも…俺は、この人たちに、愛されたかった。ただ、それだけ。その為に俺は、言われた通りに勉強もしたし、剣術も身に着けた。
 ただ、期待に応えて、愛される為に。
 今になって…それがわかった。だから、ミカエルやラファエルが何を考えているのかわからなくなった今、自分が必要とされていなかったら、と言う恐怖に、向かい合えなくなった。
 だから…俺を必要としてくれたラヴェイユに…その愛情を、求めたのかも知れない。
 そのことをミカエルに伝えられなくて…俺はただ、口を噤んだまま。そしてミカエルも、俺の肩を抱いたまま…黙って、水面を見つめていた。
 けれど、その沈黙を破ったのは、ミカエルの方だった。
「…王都に、来てみるか?」
「…ミカエル…?」
 不意にそう言われ、思わずミカエルへと視線を向ける。
 ミカエルは真っ直ぐに水面を見つめたまま。
「御前にとって、王都が良い所だとは限らない。寧ろ、御前には暮らし辛いかも知れない。だから我々も、御前に王都のことを話すのを躊躇っていたんだ。だが…御前にその気があるのなら、一度見てみると良い。それから良く考えて、進む道を決めると良い」
「…でも…もし俺が、王都で何かやりたいことがあったとしても…俺は、ここで暮らした経験しかない。それで…やって行けると思うの?」
 思わず問いかけた言葉。だが、それにはミカエルはくすっと笑いを零すと、視線を俺へと向けた。
「我々が御前に教えたのは、"生きる為に必要なこと"だ。御前が、きちんと自分の身を護って、生きていけるように。その為の術を、叩き込んだつもりだ。だから、その気になれば何処ででも生きて行ける。後は、御前が精神的にも強くなれば…な」
 ミカエルは…俺の、どんな未来を見ていたんだろう。
 そこまで…俺が強くならなければならない状況が、王都にあるんだろうか…?
 その辺のことは、俺にはまだわからない。でも…ここでただぼんやりと毎日を過ごすよりは…王都に行ってみた方が良いのかも知れない。
「一度…行ってみようかな…」
 小さくつぶやいた声に、ミカエルは俺の頭をくしゃっと掻き混ぜた。
「それなら早い方が良い。これから、行ってみるか?」
「…ちょっ……だって、そんな…母様に、何も言ってないし…」
 突然のミカエルの言葉に、俺が声を上げたのは…当然だろうと思うんだけど…。
 けれどミカエルは、笑っているだけだ。
「シーリアには、わたしから話そう。なに、ほんの二~三日だ。必ず戻って来るのだから、そんなに心配する必要もあるまい。宿泊場所は、わたしの家の部屋が空いているから、そこを使えば良い」
「でも…」
「…踏み出す覚悟があるのなら、躊躇うな。ほんの少しの躊躇が、生命を奪うこともある。それを、忘れるな」
「…ミカエル…」
 真っ直ぐに、俺を見つめる眼差し。それは…小さい頃から見ていた、柔らかな碧色の眼差し。
 俺は…未来を、見なきゃいけない。そう、思った。
「…わかった。俺が自分で、母様に話して来る」
 俺は立ち上がると、ミカエルを待たずに家へと向かった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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