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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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幻月 3
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
4話完結 act.3

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◇◆◇

 家へと戻って来た俺は、心配そうな表情で出迎えてくれた母様に向かって、徐ろにそれを口にした。
「俺、ミカエルと一緒に王都に行って来る。二~三日で戻るから、心配しないで」
「…ルカ…」
 当然…母様は、困惑した表情を浮かべていた。
 と、そこへミカエルが帰って来る。そして俺の顔と母様の顔を見て、くすっと笑った。
「ルカの話を聞いたのかな?」
「…ミカエル様…」
 ミカエルに問いただすような声を上げた母様。
「シーリア、許してくれ。王都の件は、わたしがルカを唆したんだ。だが、ルカの将来を考えれば…一度は行くべきだと思う。その結果がどうなるかは、わたしにもわからない。けれど、何れルカ自身が、自分の足で歩き出すことを考えれば必要なことだと思うよ」
 ミカエルの声に、母様は俺の顔をじっと見つめた。
 母様は…何を、思っているのだろう…?
「…貴方は…それで良いの?」
 小さく、俺に問いかけられた声。
 俺は、大きく息を吐き出す。
「…ずっと…考えてた。俺は、これからどうしたら良いのか。王都が、俺にとって合うか合わないかはわからない。でも…一度、行ってみたい。ここにいたって、俺は…何も出来ない。だったら…一度王都に行って様子を見て、その上で将来のことを考えたい」
 俺の言葉を、母様は黙って聞いていた。そして、小さな溜め息を吐き出す。
「…わかったわ。貴方が良く考えた結果なら、私は反対はしないから」
「…有難う…」
 本当は…申し訳ない気持ちで一杯だった。でも…今は、それが一番良い事なんだと…そう、思いたくて。
「さ、ルカ。それじゃ支度をしておいで」
「…うん…」
 ミカエルに促され、俺は自分の部屋へと向かった。

「…悪かったね、急に話を進めてしまって」
 ルカが部屋へ入るのを見届けてから、ミカエルは小さくつぶやいた。
「ルカは…ここへ、帰って…来ますか?」
 シーリアの小さな声に、ミカエルはにっこりと微笑んだ。
「必ず、連れて戻って来るよ。だが…我々は、そろそろ覚悟を決めて置かないといけない。ルカは…もう、小さな子供ではないんだ。成体になれば、もう能力を抑えて置く事は難しいだろう。だから…」
「わかって、います。でも…その時は、私も傍で…その時を、迎えさせて下さい。それが、母としての私の最後の勤めです」
「…シーリア…」
 ふと、ミカエルが表情を変えた。けれど今度はシーリアが、ミカエルへと微笑んで見せた。
「ミカエル様とラファエル様には…本当に、感謝しています。あの子はあんなに立派に大きくなったのですもの。私には、もう思い残すことはないんです。私が犯した罪は…私がきちんと償わなければ。ルカは…きっと、あの方に似ているのでしょうね。あの子には、良い未来が…待っていると良いのだけれど…」
「…きっと…大丈夫だよ。最初は辛い思いをするかも知れないが…いつか必ず…倖せに、なってくれる。我々は、そう信じるしか…」
「…そうですね」
 それは…いつか必ず訪れる、未来の話。
 本来の姿が覚醒したその時には…そこに、自分たちはいない。ルカは…独りで、歩いて行かなければならないのだと。それが…ルカが背負った運命なのだと。
 何れ必ず訪れるその時の為に、出来る限りの事を精一杯教え込んで来た。それが…その生命の発生を許してしまった彼等が背負った、責任として。
 そんな話をしている間に、ルカは簡単な荷物を手に戻って来た。
「…じゃあ、行って来ます」
「…気をつけて」
 にっこりと微笑んで見送るシーリア。その姿を、ルカは何度も振り返りながら…ミカエルと共に、王都へと向かって歩いて行った。

◇◆◇

 ミカエルについて王都へとやって来た時には、とっくに日は落ちて暗くなっていた。
「取り敢えず、今日はこのままわたしの家に行こうか」
 そう言われ、俺はミカエルの後を歩いて行く。
 遅い時間なのか…辺りに家はあるものの、人影はない。
「…意外と、人が少ないの…?」
 思わず問いかけた声に、ミカエルはくすっと笑った。
「この辺りは、夜になると余り人はいないね。町の方へ行けば、もっと大勢いるだろう」
「…そうなんだ…」
 物心ついてから…俺が一度に見た人数は、ミカエルにラファエル、レイ、母様と俺の5人が最高だったか…それ以上になると、大勢の規模も想像もつかないのだけれど…。
 そうこうしているうちに、一軒の屋敷の前でミカエルは足を止めた。
「ここだよ」
「…ここ…?」
 視界に入るのは…ウチの何倍あるのだろうか、と思うくらいの大きな屋敷…。
「…こんなところに住んでたの…?」
 ミカエルは天界でも上位の身位だとは聞いていたけど…その屋敷の大きさを見れば、それは疑いようもない…。
「…入ったらどうだ?」
 俺がぼんやりと屋敷の外観を眺めている間に、ミカエルは門を開けて既に中にいる。俺は慌ててミカエルを追いかけて、屋敷の中へと足を踏み入れた。
 ミカエルに案内されるままに入り口のドアを潜ると、その内部も想像以上のモノで…全く、頭が着いて行かない…。
「ルカ様ですね。御部屋へ御案内致します」
 見たこともない人が現れ、俺に声をかける。
 呆然としたままの俺に、ミカエルは小さく笑った。
「警戒することはない、家の使用人だ。わたしはちょっと仕事が残っているのでね、暫く留守にするが…部屋で食事を取って、ゆっくり休むと良い。明日になったら、王都を案内しよう」
 そう言うと、ミカエルは俺の背中をちょっと押して部屋へと促す。
 俺は…最早、されるがまま。使用人に部屋に連れて行かれ、食事を出され、シャワーを浴びて、ベッドで眠る。そこには、全く…思考は着いて来ない…。
 ミカエルの屋敷の中でそれなのだから、明日はどうなることやら…。

 ルカを屋敷に残し、ミカエルは自分の執務室へと戻って来ていた。
 そこには、ラファエルの姿もある。
「待たせたな」
 ミカエルは一言そう言うと、自分の椅子へと腰を下ろした。
「…ルカは…連れて来たのですか?」
 ソファーに腰を下ろしたままそう問いかけたラファエルに、ミカエルは小さく頷いた。
「あぁ。わたしの家に置いて来た。かなり混乱しているが…まぁ、初めて王都に来たのだから、仕方あるまい。二~三日、こちらにいる予定だ」
「…まぁ、混乱もするでしょうね。貴方の屋敷の中だけで、ルカの家で見た人数よりも多いんですから。まさか、貴方があんな豪邸に住んでいるとも思っていなかったでしょうしね」
「豪邸、って…御前なぁ…仕方ないだろう?わたしが望んだ訳じゃあるまいし…」
 ミカエルは、大きな溜め息を一つ。
 天界の総帥として、身の安全を護る為の屋敷であり、必要な使用人たちなのだから、然るべき大きさの屋敷なのだが、当然ルカには未知の世界なのだ。
「まぁ…それはともかく。シーリアとも話はして来たが…そろそろ、覚悟を決めなければな。その時には…シーリアは、ルカの傍にいたいと言っていた。それが何を意味するか…自分が犯した罪は、自分が償うと…全部、わかった上でな。ここから先は、わたしにもまだ予想はつかないことが多いが…少なくとも今回は、ルカを無事に連れて帰らないといけない。だから、余り興奮させないようにしないとな」
「何がきっかけになるかはわかりませんけどね」
 勤めて冷静なラファエルの姿に、ミカエルは小さく笑いを零す。
「ま、御前は、余計な心配はしなくて良い。せいぜい、自分の仕事を熟しておいてくれ」
「…そうさせていただきます。ただ…」
「ただ?」
 ラファエルの表情が、僅かに変わった。
「レイを…同行させてやって下さい。貴方がルカを連れて歩いていたら、どうしても人目を引きます。レイなら、騒ぎにもならず、落ち着いて回れると思います」
 その言葉に、ミカエルはじっとラファエルを見つめた。
「御前は…レイと離れて、大丈夫なのか?」
 心配そうなミカエルの表情。だが、ラファエルはにっこりと笑って見せた。
「心配性ですね、貴方は。わたしは子供ではないですよ?レイがいなくても仕事ぐらい出来ますから」
「…御前が大丈夫だと言うのなら、良いのだが…」
 イマイチ、歯切れの悪い言葉に、ラファエルは更に笑いを零す。
「わたしまで、過保護にしないで下さい。貴方が心配するようなことは、何もありませんよ。レイは、ただの側近ですから」
 ラファエルはそう言うと、ドアの傍に立っているレイを振り返った。
「ルカを、頼みますね」
「…了解致しました」
 小さく頭を下げるレイ。その姿を、ミカエルは黙って見つめていた。
 ミカエルにしてみれば…ラファエルとレイの関係は、未だに引っかかるところはあるのだが…だがしかし。ラファエルが一番信頼しているのがレイなのだから、仕方ない訳で。
「じゃあ、明日の朝、屋敷に迎えに来てくれ。何処を案内するかは御前に任せるが…枢密院にだけは入るな。あと、極力上層部との接触は避けてくれ」
 今はまだ…ルカのことを、知られる訳には行かない。
 その思いは、レイにもわかっていた。
「畏まりました」
 レイは、ミカエルに向けて頭を下げる。
「では、我々は帰りましょう。ミカエルはまだ忙しいみたいですから」
 ラファエルはそう言うと、ソファーから立ち上がる。
「あぁ、じゃあ、また」
 ミカエルに見送られ、ラファエルとレイは執務室を後にした。
 残されたミカエルは…複雑な表情をしていたのは、言うまでもない。
 今回は…ルカも何事もなく、シーリアの元へ帰るだろう。けれど、その次はわからない。
 ルカが、王都へ来るかどうかもそうだが…もしもここで生きて行くのなら、必ず訪れるであろうその瞬間。
 そこに、間に合うことは出来るのだろうか。それも、不安の要因でもあった。
 もしも…ルカの封印が壊れた時、ミカエルもシーリアも傍にいない状態であれば…ルカは、どうなってしまうかわからない。かと言って、始終くっついていることも出来ない。都合良く、彼らが傍にいる時に覚醒する訳ではないのだから。
 目が行き届かない状況が多くなることが明確なだけに…その不安は、どうにもならなかった。

◇◆◇

 俺が王都のミカエルの屋敷へとやって来た翌日の朝。俺を迎えに来たのは、レイだった。
「…ミカエルは?」
 身支度を整えてから出て行くと、レイは小さく笑った。
「職務が忙しくて、どうしても時間が取れなくなってしまったそうです。なので、わたしが代わりに王都を案内します」
「…レイの仕事は?」
「わたしは、ただのラファエル様の側近ですから。特別、わたしがいなくても影響はありません」
「…へぇ…」
 俺が見て来た姿は…いつも、どこかのんびりとしている感があった。けれど、王都ではそうではない。ミカエルもラファエルも、自分の仕事がある。それを、実感せざるを得なかった。
「さぁ、出発しましょう」
「…はい…」
 俺は、レイに促されるまま、ミカエルの屋敷を出た。

 どれくらい、王都を回っていたのか…俺にはもうわからなかった。
 ただ、夕べとは桁違いの人の多さに、目が回りそうになっていたのは言うまでもない…。
「…大丈夫ですか?」
 疲れ果てた俺の姿に、レイは人気の少ない湖の傍へと、俺を連れて行ってくれた。そして、その芝の上に大の字に寝転ぶと、やっと少し落ち着いた。
「…王都って、凄いね…」
 思わず零した声に、隣に座ったレイは笑いを零す。
「そうですね。わたしもこの地で生まれ育ちましたが…今でも時々、人の多さには驚くことがあります。人の流れが大きいですから、驚いたでしょう」
「驚いた。でも、あんたたちは、ここで生きてる訳でしょう?」
 身体を起こしてそう問いかけると、レイは小さく頷く。
「まぁ、そうですが…でも、王都は広いですから。住宅地のように、人気の少ないところもあれば、中枢のように人で溢れる場所もあります。生きて行くことに困ることはまずないですが…そこには、慣れがあるのかも知れません。貴方は、初めてここへ来たのですから、驚くのは当たり前のこと。でも、ここで暮らしていけば…きっと、これが普通になるのだと思いますよ」
「…暮らす…か…」
 正直…想像は出来ない。でも…ここへ来てしまったら、俺の生まれ育ったあの地は…何もない、味気のない場所にしか思えなくなる。それはわかった。
「…早急に結論を求めている訳ではありませんから。ゆっくり、考えて結論を出せば良いのです」
「うん…」
 空の色は、同じ。でも…その空気は違う。
 俺は…正直、迷っていた。

◇◆◇

 その日の夜。
 ルカをミカエルの屋敷に送り届けたレイは、ミカエルの執務室を訪れていた。
「本日は中枢の辺りをぐるっと回って終了しました」
 そう報告をすると、ミカエルは小さな笑いを零した。
「そうか、ご苦労だったな。明日はわたしも時間が取れそうだから、ゆっくり散歩でもして…」
「周囲が大騒ぎになりますよ?」
「そんなに気にすることはない。わたしが連れて来たんだ。少しぐらい、わたしが相手をしてやらないと意味がないだろう?」
「ですが…」
「大丈夫だ。それよりも、ラファエルのところに戻ってやってくれ」
 そう口を開いたミカエルに、レイは僅かに眉を潜める。
「…ラファエル様が…どうかされましたか?」
 ラファエルは、今日は自分の執務室にいるはず。
 心配の色を載せた声に、ミカエルは小さく首を横に振った。
「いや、そう言う訳ではないんだがな。何かあるのを心配するよりも、傍にいた方が安心だろう?ラファエルだけではなく…御前にとっても」
「………」
 そう言われ、レイは口を噤む。
 確かに…そう言われてしまえばそうなのだが…。
「…貴方様は…わたしのことを、余り…良く思われていないのでは…?」
 思わず、問いかけた言葉。勿論、レイの表情は変わらない。
「…何を言っているんだ?御前は、ラファエルの側近だろう?側近なら側近らしく、その仕事を全うした方が良いと言っているんだ。わたしの気持ちがどうのと言う問題じゃない」
 ミカエルも、表情を変えることはない。勿論…御互いの心の中は、冷静ではないかも知れないが。
「ラファエルは、わたしには何も言わないが…御前がいることで、平生を保てていることはわかっている。別の言い方をすれば、御前がいなければ…どうなるかわからない。それが、一日の不在で揺らぐか…一ヶ月の不在でも保てるか。それはわからないがな。だがな、結論は簡単だ。これ以上御前を、ラファエルから引き離すことは出来ない。ルカのことで揺らいでいる今なら尚更な」
「…御言葉を返すようですが…わたしをルカの案内に押したのは、ラファエル様です」
「確かにな。だが、御前もわかっているだろう?ラファエルはまだ、自分の気持ちをきちんと把握出来ていない。自分では平気だと思っていても、見えないところで崩れかけていることもある。それを支えるのが御前の仕事だろう?ラファエルを護るのが、御前の仕事だろう…?御前がその手で…しっかり、捕まえていろ」
「………」
 ミカエルの言葉に、レイは大きく息を吐き出した。
 初めて、ミカエルと言葉を交わした時…そう言われた事を、思い出した。
 その手で、しっかり捕まえていろ。後悔するくらいなら、最初から手を出すな。
 項垂れるように顔を伏せたレイに、ミカエルは小さな吐息を吐き出す。
「…しっかりしろ。核心を突かれたくらいで、そんな情けない顔をラファエルに見せるな」
「…申し訳ありません…」
 そう。今は落ち込んでいる場合ではないのだ。
「では…明日は、ラファエル様の所へ戻りますので、ルカのことを宜しく御願い致します」
 大きく息を吐き出すと、そう言って頭を下げた。
「あぁ、任せておけ」
「失礼致します」
 返事を返したミカエルの顔もきちんと見ることが出来ず、レイは踵を返した。
 ミカエルはその背中を見送りながら、口を開く。
「御前だから、わたしも手を出さずに見守っているんだ。自信を持て」
 その言葉に、歩みを止める。
 詳しく話を聞かれたことはない。けれど、ラファエルとレイの関係を察していることは間違いない。そして、誰よりもラファエルを心配しているミカエルにとって、自分の存在が余り面白くないことも。
 けれど、全てはラファエルの為に。それは、ミカエルなりのフォローだったのだろう。
「…はい」
 背中を向けたまま、レイは一言だけ言葉を返す。そして、ミカエルの執務室を出て行く。
 真っ直ぐに伸びたその背中に、ミカエルは少しだけ、笑いを零していた。

◇◆◇

 王都に来て二度目の朝。その日は朝からミカエルがいた。
「今日はわたしが案内しよう」
 機嫌良くそう言ったミカエル。
「今日は、レイは…?」
 昨日送って貰った時に、また明日、と言って別れたんだけど…と思いつつ問いかけた言葉に、ミカエルは小さく笑った。
「本業に戻ったんだ。わたしの仕事の都合もついたしね、今日は責任を持って、御前を案内しよう」
「…うん…」
「…どうした?元気がないみたいだが?」
 イマイチ反応の良くないルカの顔を覗き込みながら、ミカエルはそう問いかける。
「…そんなことないけど…昨日は、人が多くて疲れちゃって…」
 そう。初めて出会う人の多さに圧倒され、必要以上に神経を使った結果。ぐったりとしてしまったのだ。
「そうか。なら、今日は少し静かなところへ行こうか」
 ミカエルはそう言って笑うと、その手をルカの頭の上にそっと置く。
 そうして、ミカエルがルカを連れて行った場所は、枢密院にある高い塔の天辺だった。
「ほら、ここから王都が良く見えるだろう?」
 その声に促されるように窓から外を見渡すと、確かに広い王都をぐるりと見渡すことが出来た。
「…凄い…」
 まるで、絵に描いたような王都の中に、昨日自分がいたとは到底思えなかった。
「…御前がここに住むつもりがあるのなら…それを本気で考えるのなら、住むところも用意する。安定するまでの生活の保障もしよう。勿論、シーリアを連れて来ることも何ら問題はない。御前も…自分で歩く道を、自分で決める時期だしな」
「………」
 ミカエルにそう言われ、ルカは口を噤んだ。
 突然そう言われても、心の準備は何も出来ていない。勿論、嫌なら断れば良いだけの話なのだが…王都に興味があるのも確かなことだった。
 困ったように俯いたルカの表情を見て、ミカエルはルカの隣に立つと、同じように王都を見下ろした。
「結論を急ぐことはない。一旦シーリアのところへ戻って、ゆっくり話をしてみれば良い。その上で、興味があるのならもう一度来てみれば良い。わたしは、王都に御前を縛り付けるつもりはないし、かと言ってあの地に留まれと言っている訳でもない。今までは、まだ御前を子供だと思っていたから何も言わなかったが…御前はもう、自分で歩いて行けるんだ」
「…急にそう言われても…」
 それは、ルカには当然の答え。
 今まで何も言わずに過ごして来て、突然さぁ一人で歩け、と言われても戸惑うのは当然だった。
 ましてや、何もない山の奥にひっそりと暮らしていた状態から、天界の中心部である王都を見せられ、戸惑うな、と言う方が無理な話で。
 溜め息を吐き出すルカの頭に手を置き、そっと撫でる。
「…そうだな。だから、今はゆっくり考えれば良いと言っているんだ。突き放している訳じゃない。本当に困った時はそう言ってくれれば良い。みんな、一人で生きている訳じゃない。助け合って、支え合って生きているんだ。御前だってそうだ。もっと…我々を頼ってくれて構わないんだぞ?」
「…有難う。考えておくよ…」
 今すぐに答えは出ない。だから、そう答えることしか出来なかった。
 その日は、塔の天辺で王都を見下ろしたまま、ぼんやりと時間を過ごしていた。
 そして…不安定な心を隠したまま、翌日ルカはシーリアの待つ家へと帰って行った。

 ルカが王都から戻って一週間。ルカは王都のことはシーリアには何も話さず、ただじっと、自分の中で想いを巡らせていた。
 今後のことを考えれば、王都にいる方が良いに決まっている。こんな山奥では、何かあっても連絡一つ取れないのだから、不便この上ない。今まで、良く何事もなく過ごせたものだと、その方が不思議だった。
 その日の夕食後、ルカはやっとのことでシーリアにその話を切り出した。
「…母様…一緒に…王都に行かない…?」
「…ルカ…」
 思い詰めた表情でそう切り出したルカに、シーリアは少しだけ驚いた表情を見せた。けれど、直ぐにその表情は柔らかな微笑みに変わる。
「そう、決めたの?」
「…正直…何をやりたいとか、そう言う事はまだ良くわからない。でも…ここにいても何も始まらない。この地が嫌いな訳じゃないけど…ここにいたら、俺はずっと母様や…ミカエルやラファエルに、護られたまま生きて行くような気がする。俺は…自分の手で、大事な人を護りたい。強くなりたい。その為には…王都に出る方が良いと思う。漠然としたままだけど…ミカエルは、安定するまでの生活を保障してくれるって言っていた。それを頼るのは、本当はあんまり気乗りはしないけど…今の俺には、まだ何もないから。いつか…ミカエルに頼らなくても良くなるまでは仕方ないのかな、って…」
「そう。貴方がそうしたいのなら、それで良いのよ。わたしはどんなことがあってもずっと貴方の味方でいるわ。だから、やりたいようにやって御覧なさい」
「…母様…」
 にっこりと微笑むシーリア。反対されるとは思ってはいなかったが…ここまですんなりと受け入れられてしまうと言うのも拍子抜けなのだが…だが、今は、その想いを有難いと受け取ることしか出来なかった。
 まだ、何の見通しもない。何が出来るのかもわからない。でも、それでも…歩き出す覚悟を決めた。
 その、しっかりとした眼差しは…とても頼もしくて。そして…懐かしくて。シーリアは、目を細めて、ルカの姿を見つめていた。
 嘗て愛した…彼の父親に、良く似ている。
 髪の色も、目の色も、今は違う。けれど……父子の絆は、同じ光をそこに抱かせていた。

 そして、運命の針は、動き出す。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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