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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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幻月 4
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
4話完結 act.4

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◇◆◇

 俺は結局、母様と共に王都にやって来た。
 まだ何の目的もなく…かと言って、闇雲に何か出来る訳でもなく…ミカエルからは、軍に入る許可はおろか、枢密院に近付くことも止められたまま、郊外に近い小さな屋敷に身を置いて一ヶ月程が過ぎていた。
 その頃から…俺の身体に、その異変は起き始めた。
 何の前触れもなく、心臓が大きく脈打つ気がした。
 ドクン。
 息苦しさを感じるのは、ほんの一瞬。その後は、特に変わった症状もない。
 いつもある訳でもない。最初は、数日に一回、あるかないか。
 そして、数日の間隔が次第に狭くなり、数日に一回が一日置きになり…毎日になり…そしてしまいには、一日に何度も。
 それはまるで、病気の発作のようで。
 流石に、自分の体調に異変が起きたのかと心配になり始めた頃…それは、起こった。

「ルカ?」
 散歩の帰り道の途中に、急に背後から呼び止められた。
 聞き覚えのある声に、ドキッとして振り返ると…そこには、ラヴェイユの姿があった。
 薄闇の中だろうと、その姿を見間違えるはずはない。
 ラヴェイユはにっこりと笑うと、ゆっくりと俺に近付いて来る。
「…久し振りね、ルカ。やっぱり、王都に来たのね」
 俺の前で足を止め、そう言葉を放つ。
 その微笑みは…今まで見て来た微笑みと、何かが違う感じがする。
 何だろう…この、奇妙な感覚は…。
 ゾクッと背中を這ったのは…悪寒。そんなこと、初めてだった。
「…貴方のことだから、姉様も王都に連れて来たのでしょう?」
 問いかけられても、声を発することが出来ない。小さく頷いた俺に、ラヴェイユはそっと手を伸ばした。
「逢いたかったわ、ルカ…」
 その指先が頬に触れた時、俺は思わず肩を竦め、固く目を閉じていた。
「…ちょっと、失礼じゃない?」
 くすくすと笑いながら、ラヴェイユはそう言葉を放つ。けれどその指先は、俺の頬に触れたまま。
 まるで…俺の出方を、伺っているようで。
 あれだけ、ミカエルとラファエル、レイにまで釘を刺されたのだから、俺はこれ以上深入りするつもりはなかった。ラヴェイユがどう思っているかは知らないけど。
「…ルカ…?」
 小さく、問いかけられる。
 その途端、ドクンと心臓が脈打った。
 思わず、服の胸元を握り締める。
 その拍子に…生まれてからずっと身につけていたあの"御守り"が、まるで内側から何かの圧力を受けたかのように砕け、欠片が地面へと零れ落ちた。
 蒼い石の欠片は…まるで砂のように一気に風化し、風に舞う。
 何が起こったんだろう。まるで、訳がわからない。ただ……呼吸が…酷く苦しい。
「…ちょっと、ルカ…大丈夫…?」
 思わず地面に両膝と空いている方の手を着き、呼吸を整えようとする。けれど、また直ぐに大きく心臓が脈打ち、更に呼吸は苦しくなる…。
「…ルカっ!」
 悲鳴のような、ラヴェイユの声。それが、やけに遠くから聞こえる気がする…
 呼吸も苦しい。その上、頭がガンガンして…自分の身に、何が起こったのか良くわからない。
 けれど…何処かで、俺を呼んでいるような気がして…。
『……目ヲ、醒マセ…』
 ドクン…!!
 一際大きな鼓動。そして…身体の奥底から、溢れ出る"力"は…どうにも止めることは出来なかった。
 声も、出せない。ただ…背筋を這い上がる"何か"に耐えるかのように身体を丸め…その"圧力"に耐えるのが精一杯だった。

◇◆◇

 目の前で、何が起こっているのかわからなかった。
 突然、倒れるように蹲ったルカを前に、ラヴェイユは動けずにいた。
 ルカが放っているのは…尋常ではない"気"。それも…感じ慣れない、異様な"気"、だった。
 暫し、呆然とその姿を見つめていたラヴェイユ。けれど、集まって来た群集の中に、ミカエルとシーリアの姿を見た時、ふと呪縛から解かれたかのように声を上げた。
「彼に近付かないで…っ!」
 その声に、ルカを心配して近寄って来た者たちの足が止まる。誰もが息を飲み、その状況を見つめていた。
 その向こうで…ミカエルとシーリアが、真っ直ぐにルカを見つめている。
「…これは…どう言う事ですか、ミカエル総帥。それに…姉様。説明…して下さいますよね…?」
 ラヴェイユの表情は、先ほどまでとはまるで違っていた。
 それは…戦地に立っている時と、同じ顔。
 そして、その視線の先には…真白な翼を背中に、金色の髪を漆黒に変えたルカが、未だ蹲っていた。
「…ルカ…っ」
 ラヴェイユの射るような視線の前、シーリアは意を決したように、ルカへと駆け寄ると、その身体をそっと抱き起こした。
「大丈夫?ルカ」
「……かぁ…様…?」
 荒い息を吐き出しながら、ゆっくりと顔を上げたルカ。その顔は…白い顔に、蒼い紋様を頂いた悪魔、だった。
 その姿を目の当たりにし、大きく息を吐き出したシーリアは、そのままルカを抱き締める。
「…"御守り"が…砕け…た…」
 その胸に、いつもあるはずの"御守り"はなかった。
「…砕けた…?」
 状況が全くわからない。けれど、あの"御守り"が砕けてから、急激に"力"の抑えが効かなくなったのは確かだった。
 シーリアも今の今まで、あの石はただの"御守り"だと思っていた。けれど、もしかしたら…あの石は"封印石"だったのかも知れない。そのおかげで、ルカの覚醒が抑えられていたのかも知れない。
 ルカの封印が一生モノではないことは、最初からわかっていた。だからこそ、もっと…静かな場所で、暮らしていれば良かったのだ。
 ルカが王都へ出ることを認めてしまった自分が…全て、いけなかったのだと。
「…御免なさい…ルカ…」
「…何…?」
 呼吸は楽になったものの、相変わらず状況が全くわからない。そんな表情のルカ。けれど、直ぐにその異変に気が付く。
 視界に映る、漆黒の髪。それは…自分の動きに合わせて揺れている。つまりは…自分の髪、なのだ。
「…俺…何……?」
 ゾクッとして、シーリアの顔を見つめた。その瞳に映るのは…白い顔に、蒼い紋様。
「……母様……俺…どうなって……」
 問いかける声も、震えている。
「貴方は堕天使よ」
 その答えを言い放ったのは、ラヴェイユだった。
「…堕天使…?俺…が…?」
 思わずラヴェイユに視線を向ける。そしてそこに、剣を構える戦士を見た。
「裏切り者」
 ラヴェイユは、シーリアに剣を向け、そう言葉を吐き出す。
「通りで、ルカの父親の名前を言わないはずよね。誰だかわからないルカの父親は、悪魔だと言うことがわかったんですもの。と言うことは…貴方も同罪、ですか?ミカエル様」
 今度はミカエルへと視線を向けたシーリア。ミカエルは、口を噤んだまま、真っ直ぐにシーリアを見据えていた。
「…違う。ミカエル様は、無関係よ。このことは、誰も知らなかった!全部…私が、独りでやったこと。ルカの能力を封印したのは私!ミカエル様も、ラファエル様も、このことは何も知らなかったのよ…っ!」
「…シーリア…」
 悲鳴のように声を上げたシーリアを、ミカエルは悲痛な眼差しで見つめていた。
 シーリアは、視線をミカエルへと向ける。そして、真っ直ぐにミカエルを見つめた。
 ここは…何も言わないで欲しい。口を、噤んでいて欲しい。
 そんな想いを込めた眼差しと共に、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…騙すようなことをして…申し訳ありませんでした…でも、ルカに罪はありません。私に、全ての責任があります。だから…ルカの生命だけは助けて下さい…」
「母様…」
 ルカの身体をしっかりと抱き締めていた手を緩め、シーリアはその顔を覗き込んだ。
 その顔は、"あの悪魔"と、良く似ている。こんな状況でも、そんな些細なことが嬉しかった。
 思わず、微笑を浮かべたシーリア。
「…素敵よ、ルカ。貴方には…その色が、良く似合う。貴方には…私が愛した"あの悪魔(ひと)"の血が流れているの。決して、逆境に負けない強い血よ。だから…御願い、生きていて。必ず…生き抜いて。私の、代わりに…」
 囁くような声。けれど、ルカにはちゃんと届いていた。
 もう…今までのように、平和に暮らせるはずはない。こうなってしまった以上、もう誰も…護ってはくれない。それは、ルカにもわかった。けれど……。
「…母様を…助けて…」
 思わずつぶやいた言葉。けれど、それは無情にも否定された。
「駄目よ。裏切り者を、生かしては置けないわ」
「ラヴェイユ…っ」
 ラヴェイユはシーリアに剣を向けたまま、僅かにルカに視線を向ける。
「自覚しなさい。貴方は堕天使よ。ここにいるのは、貴方にとって全員が敵なのよ。誰も、貴方の申し出なんか受け入れない。貴方こそ、自分の生命の心配をしたら?」
 そう言われ、ルカは周りを見回した。そして、息を飲む。
 いつの間にか…自分たちを取り囲む群集は、みんな剣を構えている。完全に…取り囲まれているのだ。この状況では、もう…どうにもならない。
「覚悟を決めなさい」
 その口元に笑みを浮かべ、ラヴェイユはそう言葉を放つ。
「さようなら、姉様。全部…自業自得、よね?」
 そして、振り上げられた剣は…真っ直ぐに、シーリアに…振り下ろされた。
「…母様…っ!!」
 血飛沫が…こんなに、熱いとは思わなかった。
 噎せ返る程の、血の匂い。それは…ルカにとって、初めての経験だった。
 いつ、消えても可笑しくはない生命。それが、今目の前にある。その事実は…余りにも突然で…余りにも悲しい現実、だった。
「…嫌だ…助けてよ……母様を助けてよ…っ!ミカエル、御願いだからっ!!ミカエル…っ!!」
 思わず叫んだ声に、それを黙って見つめていたミカエルは大きく息を吐き出した。
「ミカエル…っ!!」
「女々しいわよ、ルカ」
 ラヴェイユはそう言って、血に濡れた剣先を今度はルカへと向けた。
「次は貴方よ」
 冷酷な声に、背筋がゾクッとして、血の気が引くのがわかる。
 次は、自分が殺される。
 そう思った瞬間、その身体が小さく震えた。
「…駄目…よ…ルカ……逃げなさい…」
 その耳に届いたのは、今にも消え入りそうなくらい小さく掠れた、シーリアの声。
「…母様…」
 ルカの零した声も、震えていた。
「…貴方は…生きなさい…ここで…死んでは駄目……」
「…でも…」
 瀕死のシーリアを置いて逃げるなど、自分には出来ない。最愛の母を置いて、逃げるなど。
 そんなルカの心を察したのか、シーリアは懸命にその手を伸ばし、指先でルカの頬に触れる。
「…行きなさい、己の姿を信じて」
「…母様…」
 はらりと、その頬に伝わった涙。その涙を指先で拭いながら、シーリアは小さく微笑んだ。
「愛してるわ…ルカ…」
 けれど、その直後…その指先は力なく落ちて行く。
「…母様……母様…っ!!」
 辛うじて…まだ、息はある。けれど、このままでは確実にその命は消えてしまう。
「丁度良いわ。先に、姉様の止めを刺してあげる。貴方の、目の前で…ね」
 くすりと笑いながらそう言ったラヴェイユに、ルカは涙に濡れた眼差しを向けた。
 黒曜石に変わったの瞳。そこには、最早憎悪の色しか見えなかった。
「あんた…最低だ…」
 思わずつぶやいた声に、再び笑い声が返って来る。
「私に、どんな幻想を抱いていたの?私は、戦士よ?敵に剣を向けるのは当然のことよ?姉だろうが甥だろうが、関係ないわ」
「だからって…っ」
「…もう良いだろう」
 食って掛かろうとするルカを押し留めたのは、今までずっと口を噤んでいたミカエル。
 ミカエルは、ルカの腕を掴むと、シーリアから引き剥がすように引っ張る。そして、その身体を肩の上に軽々と担ぎ上げると、唖然とするルカをそのままに、ラヴェイユに向き合った。
「良い趣味だとは言えないな、ラヴェイユ。子供の前でやり過ぎだ」
「…御言葉ですが、ミカエル様。子ども扱いするには、ルカは大きくなり過ぎましてよ?彼はもう、一人前です。遠慮していたら、こちらが被害を受けます」
 小さく笑いを零したラヴェイユは、ミカエルにそう言葉を返す。そして、再び剣先をルカへと向けた。
 しかし、ミカエルは冷静にその剣先を指で掴むと、下に下ろした。
「ルカの生命は、わたしが預かる。御前はもう、手を出すな」
「…それは、貴方様がルカの味方であると思っても良いのですか?」
「味方?何を根拠に?彼は堕天使で、わたしは総帥だ。何処で交わると?」
 ミカエルは冷静にそう返すと、ルカを抱えたまま踵を返した。
「ちょっ…ミカエル、離せ…っ!母様を…っ!母様を助けてよっ!!」
 再び声を上げたルカに、ミカエルはルカにだけ聞こえるような小さな声で囁く。
「大人しくしていろ。御前の生命は、わたしの掌中にあるんだ。シーリアの気持ちを、無駄にするな」
「……っ!」
 思わず口を噤んだルカ。
 そんなルカを担いだまま、ミカエルはシーリアを少し振り返った。
 多分…自分がこのままこの場からいなくなれば、その先は確実に止めを刺される。
 止めようと思えば、止めることは出来る。けれどその時は…ルカは、確実に殺される。
 今優先されるのは…シーリアが望んだ通り、ルカの生命、なのだ。
----…今まで…有難う。シーリア…
 一瞬の黙祷。それは、総帥として今のミカエルに出来る、精一杯のことだった。
 そしてミカエルは、ルカを担いだまま、王都を後にした。

 ミカエルがルカを連れていなくなってから暫くして、その場にやって来たのはラファエルとレイ。
 既に、シーリアを囲む群衆はいなくなっていた。けれど、まるでその場に捨てられたように、放置されているシーリアの姿は、とてもルカに見せられたものでなかった。ミカエルが、ルカの前で止めを刺させなかったのは、恐らく正解だったのだろう。
「…酷いものですね…」
 つぶやいたラファエルの表情は、とても悲しそうで。
「裏切り者に対する、正当な手段…と、答えは返って来るのでしょう。だから、誰も止めはしなかったそうです」
 情報は得ていたのだろう。冷静にそう返したレイの言葉に、ラファエルは溜め息を一つ。
「幾ら、シーリアの望みだったとは言え…助けられるものなら、助けてあげたかったですね…」
 そうつぶやきを零しながら、シーリアの傍に跪く。そして、弔いの呪を口にした。
 その姿を見つめていたレイは…いつか、その立場にいるのは自分たちなのではないかと、ふとそんなことを思っていた。
 ラファエルが弔いの呪を唱え終えると、そこにあったシーリアの姿は消えていた。
「…弔いに、行って来ます。後のことは頼みますよ」
 ラファエルはそう言い残すと、背中に翼を構え、レイを振り返らずその場から飛び立った。
 その姿を、レイは目を閉じ、深く頭を下げて見送ったのだった。

◇◆◇

 ミカエルに担がれたまま王都を後にしてから、どのくらい時間が経ったのかわからなかった。
 周りの景色は随分変わり、荒れ果てた地には草一本、生えてはいなかった。
「…俺を、何処に連れて行くつもりだよ…」
 ここに来るまで、どれだけ喚いて、訴えただろう。それでもミカエルは、一度も口を開かず、歩みも止めなかった。
 ミカエルがやっと足を止めたのは、不穏な空気の流れている場所だった。良く見れば、少し離れたところに、穴が開いている。
 ミカエルは俺を肩の上から地面に下ろすと、その視線を俺へと向けた。
「ここには、魔界と繋がる"穴"が開いている。御前を、ここから魔界へ堕とす」
「…魔界へ…」
「そうだ。御前は、もう天界では生きてはいけない。魔界が、御前がこれから生きていく場所、だ」
「………」
 ミカエルは、今までとは違う"気"を纏っていた。と言うよりも…俺が堕天使として目覚めてしまったから…今まで同属だと思っていたその"気"さえも、敵として認識されるようになったのかも知れない。
「…どうしてだよ…どうして、母様を助けてくれなかった…?母様は、全部自分でやったことだと言ったけど、ホントは…あんたも、全部知っていたんだろう?だったらどうして…っ」
「あぁするしか、御前を助ける方法はなかった。それは、シーリアの望みだ。自分が盾になり、御前の生命を護る。母親として…御前にしてやれる、最後の役目だと」
「そんなの、あんたの言い訳にしか聞こえないよっ!全部、嘘だったのかよ…っ!今まで、あんたたちが俺たち親子に親切にしてくれていたのは、全部偽りかよ…っ!結局はあんただって、母様が裏切り者だから見捨てたんだろうっ?!」
 カッとなって口を突いて出た言葉に、ミカエルは一瞬、顔を歪めた。
「シーリアが裏切り者だと…御前も、そう思っているのか?少なくともわたしは、裏切り者だと思ったことは一度もない。シーリアのことも、御前のことも、大事にして来たつもりだ」
「…俺は…」
 一番痛いところを突かれ…俺は、言葉が続かない。
 母様を、裏切り者だと思った訳じゃない。ただ…本来の姿を封じてまで、俺を育てた意味がわからなかった。
 唇を噛み締めた俺に、ミカエルはゆっくりと言葉を続けた。
「シーリアは…ずっと、御前の父親を愛していた。ただ、純粋にな。だからわたしも、御前たちを純粋に護ろうと思っただけのこと。御前の父親も…元は天界人だった。つまり、今の御前と同じ堕天使だ。わたしもラファエルも…彼のことは、良く知っているよ。だが彼は、全てを捨てて魔界へ降りた。わたしはその理由の全てを知ることは出来なかったが…きっと…堕ちるには、それなりの理由と覚悟があったはずだ。そして御前もまた、堕天使として目覚めた以上、自分の生きる道は自分で決めなければならない。だから…」
「でもあんたは、俺の気持ちを裏切った」
「…ルカ…」
 ミカエルの言葉を遮った俺を、ミカエルは真っ直ぐに見つめていた。
「自分の生きる道は自分で決めろだって?勝手に都合の良いように育てておいて、身勝手以外の何があるって言うんだよ!今更何を言い繕ったって、それはあんた自身を護る為の言葉にしか聞こえない。あんたは、母様を…助けてくれなかった…俺には、もうあんたの言葉は信じられない。あんたなんか……」
----大嫌いだ。
 俺は、そう言葉を残すと、ミカエルに背を向けて走り出した。
 そして、魔界へと繋がる"穴"の中に飛び込む。
 そこは、真っ暗な道。何処へ繋がっているのか、全くわからない。この先…どうなるのかも。
 でも、もうそんなことはどうでも良かった。
 今の俺は…誰も…何も、信じられなかった。

◇◆◇

 ミカエルが自分の執務室に戻って来たのは、もう日も変わろうかと言う時間、だった。
 その執務室の前で待ち構えていたのは、レイ一名。
「…御疲れ様でした…」
 小さくそうつぶやき、深く頭を下げるレイ。その姿を横目に、ミカエルは執務室のドアを開ける。
「御前一人か。ラファエルは?」
 ミカエルに続き、レイも執務室に入ると、徐ろにそう問いかけられる。
「弔いに…行きました」
 小さく答えた声に、ミカエルは溜め息を一つ。
「そう、か…」
 その言葉の指す意味は、わかっていた。
「…レイ。わたしは…ルカにとって、やっぱり裏切り者だったんだな」
 思わず問いかけた声に、レイは小さな吐息を吐き出す。
「貴方様が裏切り者なら…我々も、同罪です。ルカに対して…ずっと、偽り続けていたことは間違いありませんから。結果的に、シーリアを助けられなかったことは…ルカに申し訳ないと思っています。一生、恨まれても文句は言えません…」
「…そうだな…」
 幾ら、シーリアが望んだ結果だったとは言え…誰よりもシーリアを愛していたルカにとっては、許せることではないのだろう。
「…一生恨まれようが…憎まれようが…生きていて貰いたいと思うのは…わたしの我侭かい?」
 寂しそうにつぶやいたミカエルの声に、レイは小さく首を横に振る。
「いいえ。わたしも…勿論ラファエル様も…同じ気持ちです。貴方様だけの我侭ではありません」
「…そう、か」
 ミカエルは、小さく笑った。
「ラファエルが帰って来たら…十分、労ってやってくれ。後処理だなんて役割は、誰だって好き好んでやることではないからね。わたしも…少し、休ませて貰うよ」
「…御意に。ごゆっくりお休み下さい…」
 レイはそう言って頭を下げると、執務室を出て行く。
 その後姿を見送り、ミカエルは大きな溜め息を吐き出していた。
 シーリアを失ったルカが…めげずに、強く、生き延びてくれることを願う反面…生き延びたら生き延びたで、一生恨まれるであろう現実。もしかしたら、いつかルカに殺される日が来るかも知れない。
 けれど…それならそれで、潔くその剣を受ける覚悟は出来ていた。
「…これからは、貴方が…ルカを…護ってやって下さい……頼みましたよ、ルシフェル…」
 今は…そう、願うことしか出来なかった。

◇◆◇

 真っ暗な道をひたすら走り続けて…気が付いたら、広い草地に立っていた。
「…ここは…魔界…?」
 辺りは薄暗い。草原以外は、特に、何も見えない。
 大きく溜め息を吐き出した俺は、疲れ果ててそこに座り込んだ。
 色々なことが起こり過ぎて…何も、考えられなかった。
「…もう…どうにでもなれ…」
 草地に寝転ぶと、そのまま空を見上げていた。
 星空が綺麗、だった。
 今まで、魔界に関しては何も教わっては来なかったことを、ふと思い出す。
 何も教わらなかったのだから…当然、先入観など何もない。悪魔は敵だ、と言う認識すらなかった。軍にも属さず、天界のことも殆ど知らないのだから…もし捕らえられたとしても、利用される価値もない。
 それが…ミカエルの目論見だったのだろうか…?
 そんなことはわからない。きっと…知らなくても良いことだ。
 夢なら、醒めてくれ。
 幾度も、そう願った。
 けれど…それは、醒めない悪夢、だと思っていた。
 今の俺は…生きて行くのさえ、苦痛でしかなかった。

 それからのことは…凄く曖昧な記憶しかなかった。
 いつの間にかやって来た兵士に捕らえられ、王都へと連れて行かれた。そして、尋問を受け…暫くの間、牢に入れられていたことは覚えている。
 そして…次に牢から出された時…俺は、あの悪魔の元へ、連れて行かれた。
 真っ直ぐな…綺麗な眼差し。そして、柔らかな微笑み。
「御前は今日から"ルーク"だ。我々の仲魔、だ。もう、過去を振り返るな」
 抱き締められて、そう告げられた。その言葉は…俺の呪縛を解いてくれた。
 俺は…もう、天使(ルカ)ではなく、悪魔(ルーク)なのだと。
 そして…許されるのなら、"この悪魔"に…ずっと、着いて行きたいと…そう願っていた。

◇◆◇

 それから…どれくらいの時間が過ぎたのか、良く覚えていない。
「…どうした、ルーク」
 そう呼びかけられ、視線を向ける。
 そこには、大事な仲魔たちがいる。
「何でもないよ」
 そう言って、にっこりと微笑んでみせる。
 それで良い。俺は…今が、倖せだから。

 過去を、振り返るつもりはない。
 今は、前だけを見て。そこにある道を、進むだけ。
 その先に…きっと、俺の求める"何か"があると信じて。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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