聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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邪恋 1
それは…ラファエルとレイが王都へ帰った翌日のこと。
数日様子を見ていたミカエルも、そろそろ王都へ帰らなければならないと言う状況の中…ミカエルは、未だ自分の心の中に燻っているモノに、向かい合えずにいた。
ルシフェルは未だベッドの中。まだ、安静を言い渡されている状態であるから、外に出ることもない。
だから…と言う訳ではないが…ミカエルはルシフェルから離れる為に、一日の大半を別荘ではなく、近くの森や湖で過ごしていた。
だったら王都へ帰れば良いのに…と自分でも思うこともあったが、折角の休暇であることと、ルシフェルとシーリアを置いて帰ると言うことにまだ抵抗があったから。そんな理由で、未だこの地に留まっていた。
その日の夕方。いつものように森から帰って来たミカエルは、リビングのソファーで珍しく眠っているシーリアの姿を見つけた。
転寝をするには、少し肌寒い。そう思い辺りを見回しても、上にかけるものが何もなかった。仕方なく、今まで自分が羽織っていた外套を起こさないようにそっとかける。とその時ふと気が付いてその額に手を当てると、かなり熱い。
「…おい、シーリア。大丈夫か…?」
ミカエルが出かけるまでは、そんなそぶりは全く見せてはいなかったが…いつからか、調子が悪かったのだろう。呼びかけた声に、うっすらと目を開けた。
「…ミカエル様…済みません、眠ってしまって…」
そう言って起こそうとした身体を、ミカエルはそっと制した。
「無理しなくて良い。体調が悪いのなら、部屋で寝ていた方が良い。ルシフェルだって、そんなに手がかかる訳じゃないんだ。わたしが面倒見るから」
「ですが…」
尚も食い下がろうとするシーリアを、ミカエルは有無を言わさずに抱き上げた。そして、そのまま階段を上り、シーリアが使っている部屋へと連れて行く。そしてベッドの上にそっと寝かせると、その額にそっと触れた。
「無理をすると長引くだろう?余計な心配はしなくて良い。だから、ゆっくり休んでくれ」
「…ミカエル様…」
「何か、冷やすものを持って来るから」
そう言うと、有無を言わさずに上掛けを掛け、部屋を出て行く。そして階下のキッチンへと行くと、そこにいた使用人に事情を話し、冷たい水の入った洗面器とタオルを持って再びシーリアの部屋へと向かう。
留守にしていたのはほんの5分とかかっていなかったはずだが、シーリアは既にぐっすりと眠っていた。
冷たい水で絞ったタオルを額に乗せ、暫しその姿を眺める。
ここへ来てから、激務と言う程ではなかっただろうが…頻繁にルシフェルの様子を見に行ったり、怪我の様子を見たり、身体を拭いてやったり…と、細かいことに忙しくて、ゆっくり休めていなかったのかも知れない。幾ら彼女が若いとは言え、休めなければ体調を崩しても無理はない。
「…悪かったな…」
そっとその柔らかな金色の髪を撫で、近くの椅子に腰を下ろす。
ミカエルが帰るまでに彼女の体調が戻らなければ…このままにして帰る訳にも行かない。出来れば、早く回復して貰いたいと思いつつ…その後のことを考えても、頭は痛い訳で。
大きな溜め息を吐き出しつつ…その原因を突き止めようと、想いを巡らせる。
ルシフェルには…シーリアには手を出すなと、釘を刺した。けれど…それは、何を気にしてのことだっただろう…。改めてそう思うと、本当は自分の都合の良いようにしか考えていなかったのかも知れないと思ったりもした。
ルシフェルは既に上司ではなく、今は魔界にいる。魔界へ戻れば…関わりは、何もない。要は、彼が何をしようが、こちらにも責任はないのだ。
言ってしまえば…シーリアとて、子供ではない。自分の行動に責任を持っているはず。だから、ミカエルが口出しをする必要もないはず。
だったら…何を、心配していたのだろう…?何が…ずっと、燻っていたのだろう…?
そう思った時に…ふと過ぎったのは、ラファエルの顔、だった。
それも…まだルシフェルが天界にいた頃の…あの頃の、ラファエル。
再び、大きな溜め息を吐き出したミカエル。
思えば…あの頃は、自分の仕事が精一杯で、ラファエルが何をやっているかなどと、気を回すことも難しかった。そして気が付いた時には…既に、ラファエルはルシフェルと関係を持っていたのだ。それに気が付いたのも…随分経ってから、だったが。
その頃から…奇妙な感覚が、胸の奥にあることはわかっていた。ただ、その正体はその頃から全くわからずにいた。そして、ルシフェルが魔界へ降り…一時、その感覚も落ち着いていたかのように思えていたのだが…今回のことで、再び燻り始めた"何か"。
それは…もうどう考えても、ルシフェルに対しての感情しかない。
ずっと…今まで自分でも気付かないうちに…ルシフェルに、執着していたのだと言う事。
引っかかっていた何かがわかれば、後はその後をどうするか…。
ふと、シーリアへと視線を向けた。
ぐっすり眠っていて…当分は起きないだろう。
やっと芽生え始めた自分の気持ちを確かめるべく…ミカエルは、重い腰を上げた。
小さなノックの音に、ルシフェルは読んでいた本から顔を上げた。
「…どうぞ」
答えを返すと、ドアを開けて入って来たのは、ミカエル。
「…失礼します」
すっかり日の落ちた部屋の中。ベッドの傍には本を読む為に小さなライトはあるが、入り口付近にいるミカエルの表情までは伺えない。
「…どうした?」
ミカエルが纏っているその奇妙な雰囲気に、思わず問いかける。
「…シーリアが、熱を出しました。ですから…暫くは、ゆっくり休ませようと思います。何か、手伝うことがあればわたしが代わります」
ゆっくりと言葉を紡いだミカエル。
「そうか。疲れも出る頃だろうしな。ゆっくり休めればそれに越したことはない。安静だと言われているが、動けない訳でもない。寧ろ、少しずつでも動かなければ、いつになっても魔界へは帰れないしな。リハビリ代わりに多少のことは自分でやろうか」
「…そうしていただけると助かります」
勤めて淡々と言葉を紡ぐミカエル。けれど、その心の中は平生ではない。だからこそ、せめて言葉だけでも…と感情を余り出さずに話していた。
しかし。ルシフェルは当然、それに気が付いている。余りに不自然なその姿に…ルシフェルは、ミカエルの心の中を暴きたかった。
ミカエルの、本心を聞き出す為に。
「…傍へおいで、ミカエル」
そう呼びかけた声に、ミカエルは小さく息を飲んだ。
「…何か…用事でも…?」
出来れば…傍へ行かずに済ませないだろうか…?
そんなミカエルの心は、小さな笑いを零したルシフェルの前では何の役にも立たなかった。
「顔を見たい」
「………」
大きな溜め息を吐き出し、ミカエルは重い足を動かして少しだけルシフェルの傍へと向かう。
その表情が読み取れるくらいまで近付いた足は、それ以上は動かなかった。
「…わたしの仏頂面を見ても、面白くはないでしょう…?」
そう零したミカエル。けれど、ルシフェルはそんな姿にも笑いを零した。
「最近…ラファエルが王都に戻ってから、ずっと御前の顔を見ていないと思ってな。いつも何をしているんだ?」
問いかけられた声に、小さな溜め息を零す。
「休暇ですから。好きなように過ごさせて貰っていますよ。わたしは貴方の世話を焼く為に来た訳ではありませんから」
「そうやってシーリアに丸投げするから、具合を悪くしたんじゃないのか?」
「………」
丸投げをしたつもりはないのだが…そう言われてしまえば、そうとしか思えなくなる。
「…済みません…」
思わず素直に謝ったミカエルに、ルシフェルは一瞬その顔を見つめ、再び笑いを零す。
「今日は嫌に素直だな。何があったんだ?」
「…別に何も……」
ミカエルはほんの少し赤くなった顔を伏せる。
笑う顔もその声も、とても優しい。ルシフェルがこんなに笑う姿を見るのは…ミカエルも、初めてだったかも知れない。
ラファエルは…こんなに良く笑うルシフェルを、知っているのだろうか…?
ふと過ぎった想いに、すっと心が冷める気がした。
今更何を。
ふと表情の変わったミカエル。その姿を見つめていたルシフェルは、笑うのをやめた。
そして。
「…見つけたのか?御前の中で、燻っているモノの正体を」
「………」
そう言われ、どう返して良いのかと暫し想いを巡らせる。
まだ…はっきりと見えた訳ではない。ただ、ぼんやりとした輪郭は見えていた。
大きく息を吐き出す。そして、ゆっくりとその口を開いた。
「…もしも…昔の自分に一言言えるのなら…貴方に拘るのは無駄だ、と言ってやりたい気分ですよ…」
「…ミカエル…?」
ミカエルの言いたいことが、今一つ上手く理解出来ない。
小さく首を傾げたルシフェルだったが、ミカエルのその真剣な表情に、変に口を挟まない方が良いのだろうと察した。
もう、引き返せない。
ミカエルは覚悟を決めたように大きく息を吐き出す。そして、言葉を続けた。
「…わたしは…自分でも、馬鹿だと思っていますよ」
視線を合わせず、ミカエルは小さくそうつぶやいた。
「執着することが、良いことだとは思わない。けれど…どうしても、割り切れない想いがそこにあった。だから…ずっと、引っかかっていたんだと思います」
それは…ずっと引っかかっていた"何か"。
ミカエルの言葉を、ルシフェルは黙って聞いていた。口を挟んでしまったら、ミカエルはまた口を噤んでしまう。だったら、黙って聞いていよう。
彼が、全てを吐き出して楽になれるように。
「貴方は…ラファエルしか、見ていなかったでしょう?わたしには、次期熾天使は御前だと言うくせに…熾天使のことを何一つ、話してはくれなかった。わたしのことは、眼中にはなかったからだ。ただ、ラファエルにくっ付いているしつこい虫ぐらいにしか、思っていなかったでしょう…?」
その言葉には、ルシフェルも小さな溜め息を吐き出していた。
そう言うつもりはなかった。けれど…そう思われていたのなら仕方がない。
「…あんまり…馬鹿なことを言わないでくれ」
ルシフェルは溜め息と共に、その言葉を吐き出した。
口を噤んでいようとは思ってたが、黙っていればそれを肯定すると言うこと。ミカエルを、邪魔者扱いしたままだと思われるのも癪だったのかも知れない。
「御前を、邪魔者扱いしていたつもりはない。寧ろ…御前は、わたしと違ってラファエルを護ってくれる。そう、期待していたんだがな…」
「自分が出来ないことを、わたしに押し付けるつもりだったとでも?」
「…ミカエル…」
普段は冷静なミカエルであるが、今はどうしても冷静に考えることが出来ない。
その理由は…今は、自分でも理解出来た。
「…馬鹿だ…こんなことで……ラファエルに、嫉妬するだなんて…」
ポツリとつぶやいた言葉。そして、伏せられた眼差し。
そんな姿に、ルシフェルは一瞬息を飲んだ。
俯き、僅かに唇を噛み締めたその姿が、とても痛々しく見えて。
「貴方が、ラファエルに執着したことに異論を唱える訳じゃない。でも…もっと、わたしを見て欲しかった。熾天使として期待してくれていたのなら尚更…もっと、気にかけて欲しかった。それだけで良かったのに…貴方は、ラファエルしか見ていなかった。それが…悔しかった…」
ミカエルとラファエルと。昔は、大きな差などなかったはず。しかし、だからこそ…ミカエルにしてみれば、目をかけて貰えるラファエルと、放置される自分との差がわからず、悔しかったのだろう。
ルシフェルは暫く考えてから、大きく息を吐き出した。
「…御前とラファエルの差を…教えてやろうか?」
その言葉に、ミカエルが小さく身動ぎした。
「御前とラファエルの決定的な差は…ヒトを、愛せるかどうか、だ。多分御前はまだ…ヒトを好きになったことがないだろう?それが、ラファエルとの違いだ」
「………」
「御前は真面目だ。それが悪い訳じゃない。その実直な姿は、御前の大きな魅力だと思っているよ。でも、誰かを振り向かせたいのなら、それだけじゃ駄目だ。御前の身の内を、曝け出せなければ。御前には、"色気"が足りないんだ」
「…勝手なことを…」
「まぁ、堕天使の戯言だと思うのなら、それで良いさ。どうせ、御前には一生理解は出来ないだろうな。械を背負う覚悟をしてでも…誰かを、愛することは」
「……」
多分…ミカエルも、わかってはいたのだ。自分と、ラファエルの決定的な違いは。
気が付いた時にはもう既に…ラファエルは、堕天使になっていた。悪魔に身体を許し、ルシフェルとも関係を結び…いつしかその心までも、悪魔に捕らわれていた。
それでもミカエルにとってはラファエルは親友であり、彼を否定することは一度もなかった。
いかに自分が恋愛に関して鈍いか、と言うのは、否応なしに思い知らされていた。けれど、上を目指す身としては、自分はそれで良いと思っていたのだ。
大きな溜め息を吐き出したミカエル。いつになく小さく、弱く見えたその姿に、ルシフェルは言葉を続けた。
「ラファエルは…元々、愛されたかったんだろうな。心の底から、誰かに愛されたかった。必要とされたかった。だから、無意識にそう言う相手を求めたんだろう。だが、御前はそうじゃない。ヒトに弱みを見せない、強い心を持っている。そうでなければ、神に頼らずに自分の手で天界を守ろうだなんて考えないだろうしな。だからこそ溜め込んだんだろう?自分の本心を押さえ込んで、気付かない振りをして。それを、わたしに対する不満に置き換えて。自分自身を、偽り続けたんじゃないのか…?」
追い討ちをかけるような言葉に、ミカエルは言葉を返すことも出来ない。
項垂れ、唇を噛み締め、ルシフェルに口を割ったことを、後悔さえしていた。
やはり…言わなければ良かった。そんな想いが、その表情に溢れ出ていた。
けれど、ルシフェルとて…ミカエルを馬鹿にしている訳ではないし、寧ろその反対。吐き出して、楽にさせてやりたかったのだ。
小さく吐息を吐き出したルシフェルは、ゆっくりと言葉を続けた。
「今からでも…遅くはないんじゃないか…?どうせ、わたしはもう直魔界へ戻る。御前も王都に戻れば、我々が出会うことはもうないだろう。ラファエルも、わたしとの接点を徹底的に潰すと言っているくらいだしな。多分、もう二度と、直接こうして話をすることはない。だったら…全部、吐き出せば良い。その方が、御前もすっきりするんじゃないのか…?」
その声が、とても優しいと思ったのは…気の所為ではない。
顔を上げ、その眼差しを合わせる。
その気持ちを吐き出すのは…ミカエルにとっては、簡単なことではない。それが、ルシフェルに対してだけではなく…まず、自分自身が、受け入れる準備が出来ていないのだ。
「…今すぐに、結論を出せと言うんじゃない。まぁ…ここにいる間に何とかなれば、それに越したことはないけれどな」
明らかに困惑しているミカエルに向け、ルシフェルは小さく笑った。
慌てたところで、その気持ちはどうにもならない。それは、良くわかっているつもりだった。
いつもは気丈な碧の眼差しが、不安定に揺らめく。その眼差しの奥に…僅かな艶を見た。
それは…心が不安定で弱っているからこそ、見えた色だったのかも知れない。
「…ミカエル…」
思わず、その名を呼ぶ。
別に…最初から、彼に対して何をするつもりもなかった。ただ、ミカエルの話を聞いて、嫌味の捌け口であっても良かったはず。
けれど…その僅かな艶に…ルシフェルの心は一瞬で乱された。
----このわたしが…まさかミカエルに情欲を抱くとはな…
ミカエルとて、何処までルシフェルを求めているのかはわからない。ただ、愚痴を零して…吐き出して、それですっきり終わるだけかも知れない。
けれど、その先の感情を抱かれたら…今のルシフェルに、抗うことは出来ないだろう。
それ程までに、ミカエルの隠された"艶"は、ルシフェルには強烈だった。
ミカエルは、真っ直ぐにルシフェルを見つめていた。そして、小さく言葉を零す。
「…もしも……わたしが、この胸の内を全て貴方に吐き出したとして…わたしが一つの械を背負うことになったとしたら…わたしに、天界は…護れませんか…?もし、そうであるなら…わたしは、一生口を噤む。この、天界を護る為に」
心は揺れていても、その根本は変わらない。ミカエルの生命は、天界を護る為に全て捧げる覚悟でいるのだ。
だからこそ、揺れているのだろう。
ルシフェルは、そんな不安を打ち消すかのように、小さく微笑んだ。
そして。
「…もっと…傍へおいで、ミカエル」
そう、声をかける。ミカエルは重い足を引き摺るかのように、ゆっくりとルシフェルの傍へとやって来た。
床に跪き、ベッドにいるルシフェルと視線を合わせるミカエルに、ルシフェルは手を伸ばしてその頭にそっと手を乗せた。
「それしきのことで、天界は何も変わらない。現に…我々熾天使は、幾つも械を背負っていたが、天界を護って来た。幾ら械を背負っても、御前の意思がしっかりとしているのなら大丈夫だ。御前が、揺らがなければ」
「…ルシフェル…」
「御前なら、大丈夫」
にっこりと微笑んだその紺碧の眼差しは、ラファエルに向けられていた柔らかい眼差しと同じだった。
その眼差しの前…ミカエルは、小さく吐息を吐き出した。
やっと…ほんの少し、認められた気がした。そして、少しだけ…その胸が軽くなる。
今なら…吐き出せる。寧ろ、今しかチャンスはない。
「…貴方が…好きでした」
消え入りそうなくらい、小さな声。そして向けられた眼差しは…はっきりと、その"艶"が見えた。
ルシフェルは頭の上から手を離し、その柔かなウエーブの髪を耳にかけると、その頬にその手を触れた。
そして。
「…有難う」
その手の温もりと、柔らかい声と眼差し。それを前に、ミカエルは目を伏せた。
もしも…ルシフェルが天界を去る前に、それを伝えることが出来ていたら。それは、今となっては想像でしかないが…少しは、報われていたかも知れない。
そう思うと、胸が痛かった。
不意に、泣き出しそうな表情を見せたミカエルに、戸惑いの表情を浮かべたのはルシフェル。
「…ミカエル…?」
思わず問いかけた声。ミカエルは目を伏せたまま、小さく言葉を零した。
「…今更…そんなことを言ったところで、何も変わらない。貴方がわたしに優しくすればする程…どうにもならない想いに苦しめられる。そんな想いをする為に…わたしは、貴方に想いを吐き出したのですか…?」
ミカエルのそんな姿は、到底今まででは想像出来ない。
想いの端を吐き出してしまったミカエルには、もう後戻りは出来なかった。
無垢な心は、もうルシフェルの目に晒されてしまったのだから。
ルシフェルはミカエルの頭をそっと抱き寄せる。
そして、その耳元で囁くようにそっと零した言葉。
「…それが、ヒトを好きになる、と言うことだよ」
「………」
「ラファエルを置いて行ったわたしが言うことではないかも知れないが…全ての想いが、報われる訳じゃない。それは、誰にでも言えることだ。ラファエルを見ていた御前ならわかっていると思っていたが?」
「…それはそうですが…」
僅かに顔を上げたミカエルの眼差しは、未だ戸惑っている。
ラファエルとは違って、ミカエルにとっては初めてのことなのだから、仕方がないのだが。
「まぁ…理屈で通る問題ではないからね。頭で考えることじゃないのかも知れない」
そう…。理屈で全てが通るのなら、ルシフェルも…ミカエルにこんな想いを抱くことはなかったはず。
こんなに…無防備なミカエルが放つ"艶"に…誘われるなど。
小さな溜め息を吐き出したルシフェルはミカエルを抱き寄せると、再び耳元で囁いた。
「…御前が納得出来ないのなら、何もしない。だが…もし、御前が一度だけだと割り切れるのなら…抱かせてくれないか…?」
「……っ!?」
突然の思いがけない言葉に、当然ミカエルは目を丸くする。
「…何を急に血迷ったことを…っ!わたしには"色気"がないと、さっき自分で言ったでしょうっ!?」
「確かに言った。だが、今の御前には"色気"がある。自分の感情に正直になって、以前では考えられないくらい無防備な御前には…な」
「………」
思わず、赤くなるミカエル。そんな初心な姿が、とても愛おしいと思う。
「…どうする?」
問いかけたルシフェルの言葉に、ミカエルは思わず目を伏せる。
もしも、ルシフェルの要求に応えるのなら…"械"を背負うことになる。けれど…それが身を滅ぼすか否かは、自分次第。多分、そう言う事なのだと思う。それが、先程ルシフェルから言われた言葉なのではないかと。
大きな溜め息を吐き出したミカエル。
「…貴方に抱かれれば……ラファエルの気持ちがわかりますか…?例え罪に堕ちても…愛されたいと思った気持ちが…」
震える声を、精一杯紡ぎ出す。
ミカエルは、答えが知りたかったのかも知れない。
どうしても、理解出来なかったラファエルの心の中を。その、想いを。
「…それはわからない。御前は、ラファエルではないから。その全てを理解出来る訳じゃない。例え御前が、ラファエルと全て同じ道を進んでいたとしても…その本心はわからないだろう。御前は…ラファエルにはなれないのだから」
優しく紡ぎだされたルシフェルの声。それが、とても切ない。
色々な感情が溢れ出て、どうにもならない。そんな思いで、ミカエルは強く目を瞑った。
今まで…こんなに自分が不器用で、役立たずだと思ったことはなかった。それくらい、今のミカエルには自分の心を鎮めることが出来なかった。
「…大丈夫か…?」
流石に、一度に色々なことを言い過ぎただろうか…。そんな思いでミカエルの顔を覗き込んだルシフェル。
そんな心配そうな眼差しを浮かべたルシフェルの視線から逃れるかのように、ミカエルはばっと立ち上がった。そして、驚いて目を丸くするルシフェルに背中を向けたまま、走って部屋から出て行った。
「…まぁ…無理もない、か…」
小さな溜め息を吐き出したルシフェル。追いかけて行くことも出来ないのだから、見送る他に手立てはなかった。
ルシフェルの部屋を飛び出したミカエルは、そのまま自室へと飛び込む。そして、閉ざされた扉に背中を預けたまま座り込んでいた。
両手で顔を覆い、大きな溜め息を吐き出す。
自分は…何をしようとしたのだろう。
それは、大きな後悔でしかなかった。
その夜は…ミカエルは、一睡も出来なかった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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