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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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邪恋 2
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
4話完結 act.2

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◇◆◇

 翌日。
 日が昇る前にシーリアの寝室を覗いたミカエル。未だぐっすりと眠っているシーリアは、熱もだいぶ落ち着いたようだが、まだ安心は出来なかった。
 額のタオルを絞り直してその額の上に置くと、起こさないようにそっと部屋の外へと出た。そしてそのまま、別荘から外へと出て行く。
 そして、湖の畔までやって来た頃、漸く昇り始めた朝日を見た。
「…わたしは…何をしようと……」
 畔に座り込み、大きな溜め息を吐き出す。そして、湖面に映る自分の顔を見て、再び溜め息を零した。
 酷く、憔悴した顔。幾ら眠れなかったと言っても、ここまで酷い顔を見たのは久し振りだったかも知れない。
 抱えた膝に額を摺り寄せ、溜め息を吐き出す。
 出来ることなら…このまま、逃げ出してしまいたかった。けれど、シーリアも具合もまだ良くなってもいないのに、放置していなくなることは出来なかった。
 大きな溜め息を吐き出したミカエル。
 だが、いつまでもこうしている訳にもいかない訳で。
 諦めたように、ミカエルは立ち上がると、再び別荘へと足を向けた。

 別荘に戻って来たミカエルは、シーリアの寝室を訪れていた。
 未だ眠っているシーリアの足元近くに椅子を置き、そこに腰掛けてぼんやりとその寝顔を眺めていた。
 もしも、自分が女性に生まれていたら。その想いに、何の問題もなかったはず。けれど現実はそうではない。ある意味、男であったからこそ…恋愛に疎かったからこそ、ミカエルはこうして総帥の座にいられるのかも知れなかった。
----今更…何をしようと言うんだ…
 小さな溜め息を吐き出し、そっと目を閉じる。
 夕べの出来事がぐるぐると頭の中を巡る中…それでも、その身体は束の間の休息を欲していたのだろう。ほんの少し、睡魔に襲われて一瞬意識が飛んだ。
 けれど、次の瞬間。
「……ミカエル様…?」
 シーリアの声に、ハッと顔を上げる。そこには、まだ夢現のようにぼんやりとした眼差しを向けるシーリアの姿。
「…あぁ、起こしてしまったか…?」
 そう声をかけ、小さく笑いを零す。
「…ずっと、そこにいらしたのですか…?」
 寝顔を見られていた、と言う状況が恥ずかしかったのだろう。うっすらと頬を染め、身体を起こす。
「いや、さっき様子を見に来たばかりだ。夕べは良く眠れなかったものでな、ウトウトしてしまった」
 そう言いながら、シーリアの傍へと歩み寄ると、そっとその額に手を触れた。
「熱は大丈夫なようだな。わたしは明日王都へ帰るから、それまではゆっくりしていると良い。ルシフェルのことは心配いらないから」
「ですが…ミカエル様の手を煩わせる訳には…」
 申し訳なさそうにそう口にしたシーリアに、ミカエルは苦笑する。
「別に、特別なことはしていない。心配する必要はないから」
 そこまで言われてしまっては、シーリアもそれ以上何を言うことも出来ず、渋々頷く。
「…それで、だ。ついでに…戯言を聞き流してくれないか…?答えを求める訳じゃない。ただ、黙って聞いていてくれればそれで良い」
 小さく溜め息を吐きだしたミカエルは、そう言って再び椅子へと腰を下ろした。そして、シーリアから目線を外し、窓の外へと顔を向けた。
 黙ってシーリアが見つめる中…ミカエルは、ポツリポツリと、その言葉を吐き出し始めた。
「…わたしは…恋愛には縁遠いと言うか…鈍くてね。誰かを好きになることは今まで一度もなかった。いや、ないと思っていたんだ。だが…ここに来て、好きだったんだと気が付いた。馬鹿みたいな話だが…その事実に、自分自身戸惑っている」
 突然、そう語りだしたミカエルを…シーリアは、どんな顔をして見ていたのだろう。
 シーリアから顔を背けているミカエルには、到底どんな顔をしているのかはわからない。そして…自分が、どんな顔をしているのかも。
「…だがね、決して報われる想いではない。それはわかりきっていたことだし、今更…どうこうなりたい訳でもない。ただ…その気持ちを口にしなければ良かった、とだけ…な。口を突いて出た言葉は、もう取り戻すことは出来ない。わたしの心にも…相手の心にも、その想いが残ってしまう。それだけが…後悔、だ」
 小さく吐息を吐き出し、項垂れる。
 ミカエルのそんな姿を見ることは初めてであった。そして、こんなことを打ち明けられるとも思っていなかった。
 ただの…一介の、見習い医師である自分に。天界の総帥が、恋の話をしているだなんて。
 シーリアも、小さな吐息を吐き出す。
 恋愛に関しては…彼女もまた、未経験であった。純粋に医師を目指すことが最優先で、恋愛など後回しであった。だからこそ、どう考えて良いのかはわからない。ただ…彼女なりに、ミカエルの言葉には思うところがあった。
 答えはいらない、と言われていたが…思わず、その思いを口にした。
「…私は…言うべきだったと、思います」
「……どうしてそう思う?後に残るのは、後悔だけだとわかっているのに…?」
 ミカエルからそう問い返され、一呼吸置く。そして、言葉を続けた。
「言わなければ…前へは進めないから、です」
「………」
「私も…人を好きになったことはありません。でも、同じ立場であったら…きっと想いを打ち明けてしまうと思います。例え、言ってしまった言葉で後悔したとしても。言わないでずっとその想いを抱き続けていても…きっといつか、言えば良かったと後悔します。だったら…言ってしまって後悔する方がずっと良い。その方が、気持ちの整理がつきます。だから私は…貴方様は、間違っていないと思います」
「…前へ…進む為、か…」
 そう零したミカエル。
「…今まで…そんな考えをしたことはなかったな。前へ進む為に、後悔も辞さない。酷く前向きだ。わたしには…出来ない考え方だな」
 苦笑しながら、顔を上げて窓の外の景色へと視線を向けた。
「慣れないことで…躊躇い過ぎたのかも知れない。自分がどうしたいのかも良くわからない。どうするべきだったのかもわからない。正解など、何処にも見えなかったからな。後悔して、そこで躓いて…後ろを向いてしまうところだった。貴女に話をして良かったよ」
「…ミカエル様…」
 ミカエルは立ち上がると、少しだけシーリアを振り返った。
「有難う。目が覚めたよ。わたしは…躓いている暇はないんだ。この国を護る為にも…前へ、進むことにしよう」
 その言葉が、何を意味しているのか…シーリアにはわからなかった。けれど、小さく笑ったその顔は、とても優しくて。今まで感じたことのない、とても柔からい雰囲気であった。
「あとで、食事を持って来るから。ゆっくり休んでいると良い」
 ミカエルはそう言い残し、その部屋を後にした。

◇◆◇

 その日はシーリアとルシフェルの世話をただ黙々と熟したミカエル。シーリアとはともかく、ルシフェルとは必要最低限の言葉を交わすだけ。その緊張した雰囲気に、ルシフェルも余計な口は挟まない。
 そして、何とかその日を終える頃。
 シーリアの様子を見に来たミカエルは、すっかり熱の下がったシーリアに安堵の溜め息を吐き出した。
「酷くならずに済んで良かったな」
 そう零した声に、シーリアは申し訳なさそうに口を開いた。
「ミカエル様に、仕事を押し付けてしまって…申し訳ありませんでした」
「いや、良いんだ。わたしは予定通り、明日王都へ戻る。昼頃には迎えが来る予定だ。ルシフェルも…あの分だと、それ程長引かないだろう。傷と魔力の回復とリハビリを兼ねても、あと一週間ほどではないかな。その頃、一度様子を見に来るようにしよう。まぁ…誰が来られるかはわからないがな」
 そうは言ったものの、ラファエルが来ることはない。そして自分も…本心ならば、来ない方が良いのかも知れないと思う。だが、どのみち魔界へ戻るとなったら、また道を繋げなければならない。ラファエルが来ない以上、それはミカエルにしか出来ないことなのだから、自分だけの都合でごねる訳にもいかない。
 小さな溜め息を吐き出したミカエル。けれど、シーリアにはにっこりと笑ってみせた。
「…まぁとにかく、今日はゆっくり休むと良い」
「…はい。有難うございます」
 そう言葉を交わし、ミカエルはシーリアの部屋を出る。そして、溜め息を一つ。
 シーリアに関しては、もう一晩ゆっくり休めば多分もう問題はないだろう。
 問題は…ルシフェルとのこと。
 夕べは、思いがけない展開で頭の中がパンク状態であったが…ミカエルは、朝シーリアと話をしてから今日一日、冷静に考えを巡らせていた。
 前へ、進む為に。そして…この国を、護る為に。
 ミカエルは、再び大きく息を吐き出すと、ゆっくりとルシフェルの部屋へと足を進めた。

 小さなノックの音に、ルシフェルは読みかけの本から顔を上げ、ドアへと視線を向けた。
「どうぞ」
 そう返事を返すと、暫しの沈黙の後…ゆっくりと、そのドアを開けて入って来たのはミカエルだった。
「…シーリアの容態も大丈夫そうなので、予定通り、明日の昼には王都へ帰ります」
 徐ろに口を開いたミカエル。
「そう、か。酷くならずに済んで良かったな」
 奇妙に緊張した空気。それを感じながら、ルシフェルは無難にそう言葉を返す。
 夕べのことは…ミカエルは、なかったことにしようと思っているのだろう。それならば、自分も何も言うまい。ルシフェルは、そう思いながら再び手元の本へと視線を落とした。
「…面倒を掛けて悪かったな。御前にも…ラファエルにも、感謝している。まぁ、今後はこうしてのんびりと話をしている時間もないだろうから、今の内に礼を言って置くよ」
 敢えてミカエルとは視線を合わせずにそう言ったルシフェルの姿を、ミカエルはただ真っ直ぐに見つめていた。
 そして。
「……御願いが、あります」
 ゆっくりとそう言葉を紡いだミカエル。その言葉に、ルシフェルは思わず顔をあげた。
「御願い?何だ?」
 そこに、真っ直ぐ自分に向けられた碧色の眼差しがあった。そして、その瞳の奥に見えた…一つの、決意。
「今夜一晩だけ…貴方を下さい」
「…ミカエル…?」
「今のままでは…わたしは、貴方に捕らわれたまま、前へ進めない。だから…貴方を断ち切る為に、一度だけ…貴方を、下さい」
「………」
 ルシフェルは、真っ直ぐにミカエルを見つめた。
「…それが、御前が出した答えなのか…?」
 問いかけた声に、ミカエルは一つ息を飲むと、小さく頷いた。
「前へ進む為は、後悔も辞さない。それが、結論です。でも貴方は…こんな状況では不服ですか…?こんな開き直った姿で望むよりも、夕べのように…落ちているわたしの方が良かったですか…?」
「何を馬鹿なことを」
 思わず苦笑したルシフェルに、ミカエルも小さく笑いを零した。そして、羽織っていたガウンを脱ぐと、薄い夜着一枚になった。
「…初めてなので…何をどうしたら良いのかわかりませんが…取り敢えず、脱いだ方が良いですか…?」
 実に真面目にそう問いかけたミカエル。流石にそのままでは色気も何もあったものではない。
 笑いを零したルシフェルはそっと手を差し伸べた。
「良いから。そのままおいで」
 大きく息を吐き出して一つ間を置くと、ミカエルはそっとルシフェルへと歩み寄った。そして、差し伸べられた手に自分の手を重ねる。
 冷たい、ミカエルの手。幾ら覚悟を決めたとしても、緊張は隠せない。その手をそっと包み込んだルシフェルは、ミカエルに笑って見せた。
「愛しているとは言えないが…少なくとも、わたしは御前の生き方は好きだよ。ぶれないところは流石だな」
「…わたしだって、貴方が好きだったなんて自分で驚いているんですから。どうせ、貴方に愛されるとは思っていませんし、それは構いません。生き方が好きだとしても、わたし自身とは噛み合わないでしょう?わたしはラファエルとは違って…情に生きるタイプではありませんし」
「御前に、ラファエルと同じものを求める訳じゃない。御前は、御前だ。それで良い」
 ルシフェルはそう言って、握ったその手の甲に口付ける。
 そしてそっとその身体を引き寄せると、腕の中に抱き締めた。
 暖かい体温は、そこにいる証。そして…もう決して触れることはないと思っていた実体。
 そっと頬を寄せたルシフェルに、咄嗟に顔を伏せたのは…ミカエルが、天界人だから。
「そうだったな。御前は天界人だから…キス出来ないのが残念だ」
 くすっと小さく笑ってそう言うと、ルシフェルはミカエルのその額に口付ける。そしてその唇はそのまま、耳へ、首筋へと落とされる。
 熱い吐息を首筋に感じながら、その未知なる感触に小さな吐息を吐き出すミカエル。けれど、一つだけ引っかかった言葉に…僅かに身体を離した。そして、ルシフェルの瞳を覗き込む。
「…唇に…キス…しても良いですよ」
「…ミカエル…」
 それは、ルシフェルにとっては思いも寄らない言葉だった。
 唇へのキスは、天界では神聖なるモノ。本来の仕来りでは、それは将来の伴侶だけに捧げられるもの。
 幾度も身体を重ねたラファエルでさえ、ルシフェルには唇は許さなかった。それだけ重んじる仕来りを…ミカエルは、厭わないとでも言うのだろうか。
 そんな想いを乗せたその眼差しに、ミカエルは小さく笑いを零した。そして、両腕をルシフェルの首へと回す。
「確かにわたしは天界人ですが…貴方はもう、悪魔でしょう?そんな仕来り、魔界にはないのだから。だったら気にしなければ良い。わたしも今は…自分の立場は忘れます」
 そう口にすると、ミカエルはルシフェルの返事を待たず、自ら頬を傾けて唇を重ねた。
 突然の出来事に、ルシフェルは目を閉じる間もなかった。そして、閉じられたミカエルの瞳にかかる睫が、微かに震えている様子が見えた。
 心の底から、平気だった訳ではない。多分それは…ミカエルの、強がりだったのかも知れない。
 その想いに応えるには…せめて、これからの行為が無駄な足掻きだったと…やはり、こんなことなどしなければ良かったと、後悔しないように。精一杯の想いを込めて、慈しむことに決めた。
 その身体を、決して傷つけないように。時間をかけて、ゆっくりと身体を慣らし、追い立てていく。
「…ミカエル…」
 小さく名を呼んだ声に答えたのは、縋りつくように回された腕。熱い吐息と、甘い声。そして、一筋流れた涙。まるでその涙を拭うかのように唇を寄せて眦に口付ける。そして再び、深く口付ける。
 限界まで追い立てられた身体は、その想いと共に爆ぜた。
 長い、長い夜は…もう直明ける。

 遠くの空が白んで来た。その様子を窓辺でぼんやりと眺めていたルシフェルは、未だベッドの中で丸くなっているミカエルへと視線を向けた。
「大丈夫か…?」
 ふと問いかけた声に、漸く身体を起こす。
「…まぁ…何とか…そろそろ部屋に戻らないと…シーリアに見つかったら大変ですから…」
 口ではそう言うものの、なかなか身体は言う事を聞かない。
「もう少し休んでいけば良い。無理すると、王都まで帰れないぞ?」
「…大丈夫です。ご心配なく…休むなら自分の部屋で休みますから」
 そう言いながらゆっくりとベッドから降りたミカエルは、夜着を着てガウンを羽織る。
「貴方こそ…傷は大丈夫でしたか?」
 その身体に、未だ傷跡はくっきりと残っていた。塞がってはいるが、中が癒えているかどうかまではわからない上に、体力が回復している訳でもない。その状態で身体を預けてしまったのだから、負担はかなり大きかったはず。
「そんなこと気にしなくて良い」
 自分が怪我をしていることも一時忘れていた。そう思いながら、ルシフェルは小さく笑いを零した。
 初心だが予想以上に色気を纏っていたミカエル。彼の性格上、二度目はない。だからこそ、それは一時だけの幻のようで。
「これで…思い残すことはないな?」
 問いかけた声に、ミカエルは僅かに想いを巡らせた後…小さく言葉を零す。
「えぇ。思い浮かばないと言うことは、そうなんだと思います」
「そうか。なら良かった」
 小さく微笑んだまま、ミカエルの姿を眺めていたルシフェル。
 ミカエルは、そんなルシフェルの姿に少しだけ顔を赤く染める。
 今は…思い残すことも、後悔したとも思ってはいない。けれど、それは想いを遂げた、と言う余韻が残っているからであって…時間が経ってふと振り返った時は、どうなのかわからない。
 それでも…その胸にあるのは、変わらない想いだった。
「貴方は…歴代の熾天使の中でも、群を抜いて偉大だったと思います。でも、貴方はこの国を護りきることは出来なかった。いえ…貴方は護りきるつもりはなかったんでしょう。わたしは、貴方に比べればまだまだ未熟かも知れませんが、この国を護ると言う思いは負けないつもりです。その為に…貴方を断ち切る覚悟をしたのですから」
「前へ進む為なら、後悔も辞さない。御前はそう言ったな。まさに有言実行、と言うことか」
「確かにそう言いましたね。でもそれは、彼女の…シーリアの受け売りです。彼女は…わたしが思っているよりも、ずっと強いのかも知れない」
 くすっと、ミカエルの口から零れた小さな笑い。
「彼女のおかげで、目の前が開けました。そして、貴方とわたしは、決して交わることのない線上にいることもわかりました。おかげで、躊躇いもなくなりました。だから、後悔はしません。わたしは前へ進みます。覚悟していてください」
 そう言ったミカエルの顔は、確かに晴れ晴れとしているように見えた。
 そんなミカエルの姿に、ルシフェルも笑って見せた。そして、ミカエルへと手を差し伸べた。
「良く覚えておこう。御前のその強い意志も…そんな風に笑う顔も。勿論、色気のある甘い声も、口付けも、な」
「…それは忘れてください…」
 思わず赤くなったミカエル。けれどミカエルもまた、脳裏に刻み込んだルシフェルの姿があった。
 想像もつかなかったくらい、終始優しかった。そして、抱き締められたその肌の温もりも、甘い口付けも…こんなに良く笑う姿も。
 もう二度と、こんな風に身体を重ねることはない。だからこそ、自ら自分の身体にその記憶を刻み込んだ。
 大きく息を吐き出したミカエルは、差し伸べられたその手を握り締めた。
「貴方に…感謝します。有難うございました。ルシフェル参謀」
 柔らかく笑うミカエル。その表情は、多分…ラファエルにでさえ見せた事のない、優しい顔。
「しっかりな。総帥」
 ミカエルの手をしっかり握ったルシフェルもまた、柔らかく微笑む。天界にいた頃は見たこともなかった、とても暖かい微笑みだった。

 自分の部屋に戻ったミカエルは、少しだけ仮眠を取ると着替えてリビングへと降りて来た。
 そこには、以前のようにシーリアの姿がある。
「おはよう。体調は大丈夫なのか?」
 そう声をかけると、にっこりと微笑みが返って来た。
「おはようございます、ミカエル様。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。休ませていただいたおかげで、すっかり良くなりました。もう大丈夫です」
 その声にミカエルは手を伸ばし、シーリアの額にそっと触れた。その手に感じる体温は、確かに平熱だった。
「そうか、良かった」
 にっこりと微笑んだミカエル。その優しい微笑みに、シーリアは一瞬息を飲み…そして、僅かに赤くなる。
「あの…何か、ありましたか…?」
「…何か…とは?」
 小さく首を傾げたミカエル。
「…今日のミカエル様は…何だか、とても…お美しくて……」
「……」
 その奇妙な言い回しに、ミカエルはくすっと笑いを零した。多分…色気がある、とでも言いたかったのだろう。当然、そんなことを言われたのは初めてだったが…たまに言われる分には、悪い気はしない、と感じていたりもした。
「ルシフェルから離れられると言う安心感から、気が抜けたのだろうな。休暇は終わってしまうが、自分の本来のテリトリーに戻れると言う意味では、ホッとしているよ」
 それは、決して偽ることにない正直な気持ち。
 勿論、ルシフェルとのことがきっかけなのは、ミカエル自身もわかってはいるのだが…そのことは誰にも打ち明けるつもりはなかった。
「さて、それではそろそろ支度をしないとな。一応、迎えも来ることだし」
 そう言って、ミカエルは大きな伸びを一つして、笑いながら踵を返す。
 今日のミカエルは、良く笑う。それも…とても、優しい微笑みで。
 一晩の内に何が起こったのかは、シーリアは敢えて何も考えないことにした。
 ただミカエルが、迷う心から脱することが出来て良かった、とだけ。

 昼少し前、予定通りミカエルの迎えが到着し、彼等と共に王都へと向かって歩き出した。
 その背中を……部屋の窓から、ルシフェルもそっと見送っていたのは…ミカエルも知る由はなかった。

◇◆◇

 職務終了時間を少し過ぎた頃、やっと王都の自分の執務室へと戻って来たミカエル。それを見計らっていたかのように、ラファエルがその執務室へとやって来た。
「御苦労様でした」
 そう声をかけたラファエルに、ミカエルは笑いを零す。
「御苦労も何も…休暇だぞ?別に何の苦労もない」
「…そうですか…?」
 暫くミカエルの姿を眺めていたラファエルは、小さく首を傾げる。
「…どうした?」
 その奇妙な視線の前、ミカエルは思わずそう問いかける。
「…ルシフェルと…何かありましたか?」
「…何か、とは?」
「…そこまで言及するつもりはありませんけれどね。ただ…随分、笑い方が柔らかくなりましたね」
「………」
 そうはっきり言われてしまうと、ミカエルもどう答えを返して良いものか…考えてしまう。
 返事を考えながら座っていた椅子から立ち上がり、自ら御茶を淹れる。そして、ラファエルが座るソファーの前に、一つカップを置いた。
「…まぁ、何を想像するのも御前の勝手だ。だが…わたしは、ぶれるつもりはないんだ。わたしは総帥として、全力でこの国を護るつもりでいるよ。その為に…真っ直ぐに前へと進める道を選んだだけのこと。それ以上でも、以下でもない」
 その言葉が何を意味しているのか…考え出せばキリがない。けれど、何処か晴れ晴れとしたミカエルの姿に、それは言及するべきではないと感じ取った。
 そして、ラファエルは小さく笑う。
「貴方がそのつもりなら良いんじゃないですかね。貴方の人生ですからね。わたしに、口出しをする権利はありませんから。貴方が真っ直ぐ進むのなら、わたしはそれに着いて行くだけ、ですよ」
「…ラファ…」
 にっこりと微笑むラファエル。彼もまた、何かすっきりとした様子だった。
「では、わたしは帰りますよ。余り帰りが遅くなると、残業ばかりしていると体調を崩すからと、レイが煩いですから」
 さらっとそう言ってソファーから立ち上がったラファエル。
 ミカエルも一度さらっと聞き流したのだが…ふと、引っかかる。
「…御前の帰りが遅くなるのを、どうしてレイが心配する?彼奴は寮に……まさか御前…連れ込んだのか?!」
 思わず声を上げたミカエルに、ラファエルはくすくすと笑った。
「人聞きの悪い。執事ですよ?今までいた執事が、高齢を理由に丁度辞めることになりましてね」
「御前なぁ…」
「働き者でしょう?ウチの有能な側近は」
 笑いながら、ラファエルは執務室を出て行く。その背中を見送ったミカエルは…思わず呆れた溜め息を一つ。そしてその後、小さく笑いを零した。
「…ったく…」
 勿論、それがラファエルが選んだ道なのだから、文句は言えない。
「…安眠出来るのなら、まぁ…仕方ない、か」
 ラファエルは、ミカエルのことにも深入りはしなかった。だからこそ…ミカエルも、深入りは出来なかった。
 御互いの関係を、保つ為に。相手を信じているから、それで良いと納得は出来た。
「さて、それではわたしも今日は帰るか…」
 必要な書類を簡単にまとめ、自分の屋敷へと戻って行く。
 実に色々なことがあった休暇は、終わりを迎えたのだった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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