聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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邪恋 3
約束の一週間は、あっと言う間に過ぎてしまった。
その日、前以て約束していた通り、ミカエルは魔界のマラフィアへと連絡を入れていた。
『…そうですか。ルシフェル様は順調に回復されていますか…』
一度、ラファエルから連絡は入っているはずである。だがその時はまだミカエルも戻って来る前だったので、その後の様子は伝えていなかったのだ。
ホッとしたようなその姿に、彼がどれだけ心配していたのかを察することは出来た。
「それで…だ。わたしはこれから別荘へと向かうのだが…明日、ルシフェルを魔界へ帰すつもりだ。もう魔界でも大丈夫だろう。前回と同じ時間に、空間を繋げる。同じ場所で大丈夫だろうか?」
ルシフェルならばともかく…流石に、一時間も顔を合わせなかったマラフィアの気を掴むことは難しかった。だが、前回繋いだ場所ならば何とかなる。
『はい。御待ちしております』
マラフィアはそう言って頭を下げた。
通信を切ったミカエルは、小さな溜め息を一つ。
ラファエルには、話はしてある。だが、ミカエルはもうラファエルとルシフェルを会わせるつもりはなかった。なので、今回はミカエル一名のつもりだった。
出発の準備を進めていると、執務室のドアがノックされ、ラファエルが顔を出す。
「そろそろ出発かと思いまして…」
「あぁ…もう直に出るが…何かあったか?」
問いかけたミカエルに、ラファエルは小さく笑う。
「いえ、別に。ただの見送りです」
「…そう、か。明日中に帰って来るつもりではいるが…待たなくて良いからな」
ミカエルはそう言って執務室のドアを開ける。
「…何か、伝言は?」
それは、ルシフェルに宛てて。
「…特にわたしから何かはありませんが…レイから一つ、言伝がありましてね」
「レイから?」
「えぇ。どうぞ、御心配なさらずに、だそうですよ」
「…そう、か。まぁ、伝えておこうか」
ラファエルは、相変わらず笑っている。すっかり顔色も良くなり、夜もしっかり眠れるようになって来ているようだ。実に皮肉なことだが…幸せそうなその姿に、ミカエルも苦笑する。
「行ってらっしゃい」
にっこりと見送られ、ミカエルは別荘に出発した。
その日の夜に別荘に着いたミカエルを出迎えたのは、当然シーリアだった。
「御忙しいのに、行ったり来たり大変ですね」
苦笑するシーリアに、ミカエルは笑いを零す。
「まぁ、な。だが…気苦労からもやっと解放されるからな。そう思えば別に苦にもならない」
その言葉に、シーリアの表情が僅かに曇った。
「…どうした?」
その変化を見過ごさなかったミカエルは、そう問いかける。
「いえ……何でもありません」
にっこりと笑ったシーリアは、すっと踵を返した。
「ルシフェル様に、御声かけして参りますね」
その背中を見送ったミカエルは、奇妙なその感覚に小さく首を傾げていた。
部屋に荷物を置き、一息付いた頃に、そのドアがノックされた。
「どうぞ」
声をかけると、そのドアを開けて入って来たのはルシフェルだった。
「忙しいのに大変だな、御前も」
「…すっかり元気になられたようで…」
小さな吐息を吐き出したミカエルに、ルシフェルはくすくすと笑いを零した。
「あぁ、傷も塞がったしな。魔力はもう少し回復に時間がかかるが、ここまで来れば魔界でも回復出来るだろうから心配ない。マラフィアには連絡を入れてあるんだろう?」
「えぇ、連絡はしました。明日、道を繋げます。来る時はわたしとマラフィア殿で何とか連れて来たんですから。今度は自力で帰ってくださいよ」
「言われなくても帰るよ。回復すればするだけ…どうも居心地が悪い」
その笑いは、いつの間にか苦笑いに変わっている。
「…シーリアと何か…?」
先ほどのシーリアの様子を思い出し、ふと問いかけた言葉。ルシフェルは窓辺へと歩み寄ると、そっとその窓を開けた。そして、その窓辺へと凭れかかる。
「彼女は…何か言っていたのか?」
「…いいえ。聞いていたら、貴方には聞きません」
ルシフェルの言い方は…明らかに、自分がいなくなってからの一週間の間に何かがあったと言っているようなもの。
「…まさかとは思いますけど…彼女に、手を出してはいないですよね……?」
思わずそう口にしたミカエルに、ルシフェルは苦笑する。
「御前は本当に、わたしを節操なしだと思っているだろう?まぁ、ラファエルと御前と、手を出したのは間違いないんだがな」
「…わたしはともかく…ラファエルは…本気だったのではないのですか…?」
そう。だからこそ…ラファエルは、あれだけ苦しんでいたと言うのに。
「昔の話だ。ラファエルとて、もうそのことには触れられたくはないだろう?わたしは、昔とこの間の二回も、ラファエルに振られたんだ。今更、どうなるものでもない。つまりは、今はフリーだ、と言うことだな」
くすっと笑うルシフェル。
その笑いが、尚更ミカエルの苛立ちを煽った。
「マラフィア殿は?彼は、貴方に好意を抱いているでしょう?」
「彼奴はただの補佐だ。ただ単に、魔界受けの悪い上司を心配しているだけだ。別に、御前が考えているような関係は何もないんだが?」
「…だからって…彼女には手を出さないでくれと言ったはずです」
「まぁ、な。確かに、そんなことはしないとは言ったが…それは、わたしが、と言うことだろう?」
「…シーリアの方が、貴方を誘ったと…?」
「…そう言う言い方はないだろう。何を苛ついている?それは彼女にも失礼だろう。第一…誘われてもいないよ」
「………」
大きな溜め息が一つ、零れた。
「それは……貴方の方が本気だ、と言うことですか…?」
ミカエルは言葉を変え、問いかける。すると、ルシフェルの笑いが止まった。そして、真っ直ぐに向けられた眼差しは…とても、柔らかくて。
「彼女が好きなのか?」
以前にも問いかけられたことを、もう一度問いかけられた。
その時と違うのは…ミカエルがほんの少し、その言葉の意味を考えた、と言うこと。
「…多分…好きですよ。ただ、貴方が思うような恋愛としてではなく…ですが」
その言葉の意味を、ミカエルは自分で口にしながら考えていた。
「では、御前の好きを、聞かせて貰おうか…?」
僅かに首を傾げ、そう問いかけたルシフェル。その言葉を受け…ミカエルは、小さな吐息を吐き出す。
「この一週間で、以前にはなかった感情を身につけた、と言うのが正直なところです。まぁ…貴方への想いを自覚しましたから、と言うこともあるのですが…彼女の事は好きですよ。ですが、先ほど言った通り、恋愛感情か、と言われればそれは違うだろうと思います。彼女の事は、一名の天界人として…彼女の存在そのものや考え方が好きだ、と言うことです。言ってしまえば、ラファエルに抱いている感情と大差はないのでしょう」
それは、仲間としての…愛おしい、と言う感情。
「わたしには…彼女をここへ連れて来た、と言う責任があります。貴方と出逢わせてしまったことは、申し訳ないと思っています。だからこそ、彼女の未来を潰す訳には行かないのです」
溜め息混じりにそう言葉を放ちつつも…ミカエル自身、何処か苛ついているのはわかっていた。
ルシフェルへの想いは、疾うに断ち切ったはず。だとしたら…ラファエルに抱いている感情と同じだとすれば…それはやはり、ルシフェルに想われているのではないか、と言う嫉妬なのかも知れない。
自分自身の感情に困惑の表情を浮かべているミカエルに、ルシフェルも小さな吐息を吐き出した。
「彼女は……とても素直で真っ直ぐな子だ。見習いとは言え、医師としても申し分ない。御前が彼女の未来を、潰す訳には行かないと言う気持ちも良くわかるし、それは護らなければならない。だから…もっと早く…わたしが魔界へ行く前に、出逢えていれば良かったと思うよ」
「…それは、どう言う…」
「総帥たる御前がわからないのか?悪魔と天界人の恋愛など、最大の禁忌(タブー)だと言うのに。そんなことに、易々と手を出せるとでも?わたしはともかく…彼女を…傷付ける訳にはいかないだろう?だから御前だって、未然に不安の芽を摘もうとしたんじゃないのか?」
「………」
再び、ミカエルの口から溜め息が零れる。
「彼女は…何と…?」
奇妙な胸の重さが、そこにはある。
もし、シーリアが本気なら…多分、躊躇わずに進むだろう。それが、禁忌だろうが何だろうが…そんなことは、関係なく。
それが…ミカエルが見た、彼女の強さなのだから。
「まだ…何も言ってはいないよ。言えるはずがないだろう?わたしだって、そこまで馬鹿じゃないからね」
小さな吐息と共に吐き出された言葉に、ミカエルは大きく息を吐き出し、笑いを零した。
「そんなに弱気じゃ、笑われますよ、彼女に。彼女は…シーリアは、わたしを諭したくらいですから。言わずに後悔するより、言ってしまって後悔する方が余程良い。それが、わたしが聞いた彼女の結論です。前へ進む為に、後悔も辞さない。それは、彼女の言葉ですよ」
「…ミカエル…」
今度は、ルシフェルの顔に困惑の表情を浮かべた。
「御前は…何を考えているんだ?わたしに、彼女に手を出すなと言って置きながら、今度はわたしを焚きつける。どう言うつもりなんだ…?」
確かに、ルシフェルの言う通り。自分の言葉が、矛盾していると、ミカエルもわかっていた。そして、自分がその舞台には立つべきではないことも。
だからこそ…ミカエル自身には、答えを出すことが出来なかった。
全て…彼等に、委ねるしかない、と。
「別に、焚きつけた訳ではありませんよ。ただ…わたしが貴方を制したのは、貴方が本気にはならないと高を括ったからです。ですが、貴方が本気なら…わたしが手出しも口出しもすることじゃない。自分たちで何とかしてください。但し、彼女はわたしの部下ですからね。何かあれば、無条件にわたしは、彼女の味方ですよ。貴方に剣を向ける準備はしておきますから。それを御忘れなく」
ミカエルはそう言うと、ベッドの上に置いた外套を再び手に取ると、ドアへと歩き出した。
「何処へ行く?」
慌てて声を上げたルシフェルに、ミカエルは小さな笑いを返した。
「時間は今夜一晩しかありませんよ。マラフィア殿との約束通り、明日の朝には貴方を強制送還します。だから…ちゃんと、結論を出してください。一晩だけなら…目を瞑りましょう。別に、わたしから何かを強要する訳ではありませんけれどね。後は…貴方と、彼女次第です」
それだけ言い残し、ミカエルは部屋を出て行く。
その背中を…ルシフェルは、困惑した顔で見送っていた。
ミカエルが玄関のドアに手をかけたところで、背後から声が届く。
「ミカエル様、どちらかへ御出かけですか…?」
振り返れば、そこには心配そうな顔をしたシーリアがいた。
「あぁ…ちょっとな」
一度はそう答えたものの…ミカエルは思い立って、大きく息を吐き出した。
そして、シーリアへと向かい合う。
「貴女は…わたしに言ったね。言わずに後悔するよりも、言ってしまって後悔する方が余程良いと。わたしは、貴女のその強さに救われた。だから今度は…わたしが、その言葉を貴女に送ろう。これを逃したら…もう、出逢う機会などないだろう。だから…後悔のないように、な。わたしは朝まで留守にするから」
「…ミカエル様…」
困惑した表情のシーリアは、ほんの少しだけ考えて、それから再び口を開いた。
「私は…ミカエル様と争うつもりは…」
「わたしと争う?何のことだ?」
首を傾げるミカエル。
「それは…ミカエル様とルシフェル様の邪魔をするつもりはないと……」
シーリアのその言葉を聞いた途端、ミカエルは笑い出した。
「何を言い出すのかと思えば…わたしとルシフェルは、そんな関係ではないから」
「ですが…っ」
「貴女が何を想像しているかは…まぁ大体想像はつくが…わたしとルシフェルの間には、恋愛感情などないから。ただ…昔の想いに捕らわれていただけ、だ。わたしはその想いをちゃんと昇華したから。何の問題もない」
にっこりと微笑んだミカエルは、そのままドアを開け、外へと出て行く。
後ろから追って来る気配はない。そのことに安堵の溜め息を吐き出し、湖へと足を向けた。
畔で寝転んで空を見上げる。
零れ落ちそうなくらいの星空は…何を見つめているのか。
「…馬鹿だな、わたしも…」
思わず零れた言葉に、自分で苦笑する。
まさか…こんなにもあっさりと禁忌に目を瞑ることになるなんて。総帥として…どうかと思う。
「…彼奴等に、感化され過ぎだ…」
それは…自身の片腕と…最早その伴侶とも言える側近。
小さな溜め息を吐き出し、目を閉じる。
移動して来た疲れもあって、そのままうとうとする。
寒い季節でなくて良かった、と思いながら…ミカエルは、そのまま眠りに落ちていた。
ミカエルが出て行った後。
困惑した表情のまま、暫くリビングのソファーに座り込んでいたシーリア。
ミカエルの言わんとしていることはわかっていた。けれど…それが何処までの意味なのか。その意味を図りかねている時…ルシフェルが階下へと降りて来た。
「…シーリアだけか?ミカエルは…?」
リビングに一名残っていたシーリアに、そう問いかけたルシフェル。
「ミカエル様は、先ほど外へ…」
「…そう、か…」
自分で言った通り、ミカエルは既に出て行ってしまった。元々でしゃばらない使用人たちは、既に部屋へと戻っている。となれば、そこにいるのは…ルシフェルとシーリアの二名だけ。
「…ミカエルが折角作ってくれた時間だ。少し、話をしようか…」
シーリアの向かいに腰を下ろしたルシフェル。目を伏せたシーリアは…明らかに、困惑したまま。
そんな姿を眺めながら…ルシフェルはゆっくりと口を開いた。
「貴女には…感謝しているよ。何処の誰ともわからない瀕死の堕天使を、ミカエルの指示だったとは言え文句も言わずに面倒を見てくれた。本当に、感謝してもしきれない」
「そんなこと…」
シーリアは慌てて首を横に振り、顔をあげた。
「私の方が…ミカエル様に、救っていただいたんです」
そう言って小さな吐息を吐き出したシーリア。
「私は…医師として駆け出しとは言え…殆ど何も出来ずにいたんです。私の妹は、戦士としての道を進み始めたばかりですが、昔からセンスがあって、回りから褒められることも多かったんです。だから、昔から比べられてばかりいました。でも、それは良いんです。私は、妹とは違う。それは最初からわかっていましたから。私は他人を傷つけるのは嫌いです。それが例え、敵であったとしても…助けたいと思う気持ちのほうが大きかったんです。ただ、それだけの想いでしたから…私に感謝だなんて、やめてください。感謝すべきは、ミカエル様です。ですから……私は、ミカエル様を裏切ることは出来ません…」
シーリアの言葉を、黙って聞いていたルシフェルだったが…その最後の言葉には、口を挟まずにはいられなかった。
「貴女の気持ちは良くわかった。だが…何がミカエルを裏切ることだと?」
問いかける声に、シーリアは再びその視線を伏せた。
「…ミカエル様と、ルシフェル様の御関係のことです…」
流石に、それ以上のことはシーリアには口には出来ない。けれど、その言葉が意味することは、ルシフェルにも直ぐにわかった。
「わたしとミカエルが好き合っていると…そう思っているのか?」
その言葉に、シーリアは小さく頷いた。
「…ミカエル様は否定なさいましたけれど…御会いになられた初日と最後の日では、ミカエル様の纏う気も違いました。とても、御優しく笑うようになられて…それは、想いが報われたから…ではないのですか…?」
「…報われた、ねぇ…」
小さな溜め息を吐き出し、暫く想いを巡らせるルシフェル。
何を何処まで想像しているのかはわからないが…確かに色々あったが、それはまた別の次元の話であり、シーリアが想像しているのはまた違う意味合いだろう。シーリアの勘違いを何処まで否定して良いのかも微妙だろうと、そんな思いも過ぎる。
否定した所で…何処までそれを信じて貰えるか。現に、ミカエルが否定していると言うのに、それを信じていないのだから。
再び溜め息を吐き出したルシフェル。
そして、考えながら…ゆっくりと言葉を続けた。
「まず…ミカエルが纏う気が違った、と言うのはだな…わたしが天界を離れてから今まで、彼奴が心の奥底に抱いていたモヤモヤとしたモノが解消されたからだ」
「…解消…?」
怪訝そうに、小さく首を傾げたシーリア。
「そう。彼奴はね…ラファエルに、嫉妬していたんだ。勿論、ミカエルとラファエルの関係は貴女も良く知っていると思う。ラファエルはミカエルの親友で、片腕だ。実力的にはミカエルの方がラファエルを上回っているし、嫉妬するのは可笑しいと思うかも知れないが…まぁ、彼奴なりに色々と思うところがあったんだろう。それを全部吐き出してね、漸く楽になったんだ。だから、変に肩肘張っていた緊張が解れて、優しく笑えるようになったんだろう」
そう言いながら、ルシフェルは小さな笑いを零していた。
「まぁ、わたしとミカエルの関係は、元上司と部下、と言うだけの話だ。別に、今御互いに好き合っている訳でもないし、今回のことが終わったら会うこともないだろう。今は小休止と言う所だが…敵同士でもあるしな。多少、親しく話はするが、本来はそれ以上でも以下でもない。変に気を回し過ぎだ」
「………」
ルシフェルの言う通り。変に気を回し過ぎ、余計な想像力を働かせ過ぎた。そう思うと、流石に恥ずかしくて赤くなる。
そんな姿を見つめ、ルシフェルは再び口を開く。
「ミカエルは、決してぶれはしない。この天界を護ることに精一杯で、恋愛だの何だのと言うことは論外だった。彼奴は、昔からそう言うヤツだ。天界の総帥として、常に真っ直ぐだ。だから、彼奴を信じて付いていけば大丈夫。わたしの怪我を治したんだ。貴女もきっと、立派な医師になれるから」
そう。それで良い。それ以上、何も求めなければ…このまま、別れられる。
何も…壊すこともなく。
一歩引いた状態のルシフェルに、大きく息を吐き出した。
シーリアは自分の手元に視線を落とし、暫し想いを巡らせる。そして、彼女なりに考えを纏めると、再び顔をあげた。
「…一つ…教えていただけますか…?」
「何だね?」
ふと、纏う気が変わったような気がした。
そんな想いを抱かせるほど、シーリアの表情は先ほどまでとは全く違っていた。
「一週間前、ミカエル様が王都に戻られる直前に私が熱を出した時に…ミカエル様が仰っておりました。過去に、想いを寄せた方がいらしたこと。けれど、その方に想いを打ち明けなければ良かった、と。伝えてしまったことが…何よりも後悔だった、と。それは…貴方様に対する想いだったのではないのですか…?今はそんな関係ではないと仰いますけれど…本当に、過去の想いを素直に昇華出来るものですか…?」
そう問いかける声に、ルシフェルは小さく笑いを零した。
「どうだろうね。それはミカエルの想いであって、わたしが抱いていた想いじゃない。だから、それをわたしが言うのは違うだろう?ミカエルには、ミカエルの想いがある。それは否定はしない。だが、だからと言って今もそうかと言えばそれも違うだろうし…彼奴は、今のわたしから、何らかの見返りを求めていた訳でもない」
そう。決して、ミカエルの想いを否定した訳ではない。そしてルシフェル自身も、偽りの気持ちをミカエルに向けた訳ではないのだから。
ただ、御互いに過去と向き合うタイミングが合っただけ。そう思うのが妥当なのかも知れなかった。
「ルシフェル様は…後悔は、ないのですか?」
再び問いかけるシーリア。
「レイ様に…伺ったことがあります。熾天使様であった貴方様が、天界を捨ててまで魔界で生きて行く意味があったのか、と。その時にレイ様は、天界にいられない理由があったのではないか、と仰っておりました。本当は離れたくはなかったとしても…行かなければならなかったのではないかと…そこに、後悔はなかったのですか…?」
「…ヒトの過去を餌に、何の話を…」
そう言いつつ、ルシフェルは苦笑した。けれど、真剣な眼差しのシーリアを前に、小さな吐息を吐き出す。
「わたしは…熾天使として、自分のやるべきことはやったつもりだ。だが…ヒトの心の全て奪うことは出来ない。それが例え熾天使だったとしても、ね。魔界へ降りたのは、天界にいられない理由があったからじゃない。自分の本性に素直に従えば、魔に染まった方が楽だった。それが理由だったのかも知れないね。だから、後悔など何もなかったよ」
ほんの少し、昔を思い出す。熾天使になる為に選んだ道は…常人には理解することは出来なかっただろう。
誰に打ち明けることも出来ず…歪んだ心。それを癒す術を知らず、救いを求めた先がラファエルであった。けれどそれでも救われることはなく…結局、魔界へ降りるしか、道は残っていなかった。
勿論、そのことに関して、後悔している訳ではない。後悔したところで、今更どうにもならない。それは、昔からわかっていたことだったから。だから、後悔など何もなかったはずだった。
「過去を、振り返るつもりはない。全て、自分で選んだ道だからね。勿論、ラファエルを傷つけ、ミカエルを傷つけた。その事実には申し訳なかったと思う。だが、それはわたしの後悔ではなく、救ってやれなかった自分の至らなさを実感しただけのこと。それに、彼等は自分たちで乗り越えたんだ。今更わたしが口を挟む必要はない。と言うよりも、寧ろ口を挟むことを拒まれたけれどね」
珍しく、自分語りをしている。それが酷く滑稽で、どうしようもなく笑いが込み上げて来る。
ルシフェルが抱いた本当の後悔は…今まででたった一つ。それは…シーリアを、巻き込んでしまったこと。そして、彼女に対して…年甲斐もなく、仄かな想いを抱いてしまったこと。
小さく吐息を吐き出し、微かに微笑を浮かべたルシフェル。
「少し…喋り過ぎたようだ。こんなに自分のことを話したのは久し振りだよ」
自嘲気味でありながら、少しだけみせたその本心に、シーリアは僅かに表情を和らげた。
もっと早く…このヒトに出逢えていたら。そうしたら、何かが変わっていただろうか。
そんな想いが脳裏を過ぎり、それが叶えられない願いだと思う自分が…とても、臆病に思えた。
表情を曇らせたシーリアを見つめていたルシフェルは、小さく笑いを零す。そしてその手を伸ばし、シーリアの頭の上にそっと置いた。
「さ、そろそろ休もうか。気を使ってくれたミカエルには悪いが…我々は、これ以上踏み込まない方が御互いの身の為だ。君はまだ若い。この先の未来には、希望がある。わたしなどに構うよりも、もっと良い未来がね」
ルシフェルはそれだけ言い残すと、先に席を立った。そして、自分の部屋へと引き返して行った。
その背中をただじっと見つめていたシーリアは…その姿が見えなくなると、大きな溜め息を零した。
ミカエルには、前に進む為なら後悔も辞さないと言ったクセに…いざ自分がその場に立った時には、どうしてこうも臆病になるのだろう。
前に、進む為に。
暫く考えていたシーリアは、大きく息を吐き出すとその席を立つ。そして、意を決したように階段を上っていた。
前へ、進む為に。今出来ること。
それを…確かめる為に。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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