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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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邪恋 4
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
4話完結 act.4

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◇◆◇

 部屋に戻ったルシフェルであったが、落ち着く間もなくドアがノックされる。
「…はい?」
 返事を返すと、開いたドアの隙間から顔を覗かせたのは当然シーリア。
「まだ何かあるのか?」
 深入りはしないと決めたルシフェルに対し、シーリアは未だ、消化不良なのだろうか。
 そんなことを考えながら問いかけた声に、シーリアは真剣な表情のまま、ゆっくりとドアを開け部屋の中へと入って来る。そして締めたドアを背中に、そこに暫く佇む。
 そうして暫しの沈黙。
「…シーリア?」
 入っては来たものの、黙ったまま動かないのシーリアに問いかけた声。
 すると、シーリアは大きく息を吐き出す。そして。
「後悔は…残したくないです」
 小さくそうつぶやくと、真っ直ぐにルシフェルを見つめた。
「後悔…?」
 踏み込まないことが、御互いの為だと言うことはわかっている。けれど、シーリアにとってそれは後悔にしかならない。そう言う事なのだろうか。
 ほんの少し、困惑した表情を見せたルシフェルに、シーリアはにっこりと微笑んで見せた。
 そして。
「貴方様が好きです」
「………」
 にっこりと微笑まれ、そう告げられ、流石のルシフェルも一瞬言葉に詰まる。
 けれど、シーリアは唖然とするルシフェルに向け、更に微笑んだ。
「どうしても、言っておきたかったんです。今言っておかなければ…多分、もう二度と御会いすることは出来ないでしょうから、言える機会などありませんし」
「…まぁ、そうだね」
 先日のミカエルとは違い、実にあっさりと告白され、ルシフェルも思わず笑いを零した。
「出逢えて…良かったです」
「…あぁ、わたしもだよ」
 つられて…と言うか、その話の流れで、と言うべきなのか…そう返したルシフェルに、シーリアの微笑みが一瞬固まる。そして次の瞬間、伏せられた眼差し。
 当然、突然変わったその姿に、ルシフェルは再び困惑する。
「何か…気に障ったかな…?」
 ラファエルとは違う。そして、ミカエルともまた違う。それが、性別の差であったのかどうか、ルシフェルには理解出来ていなかったのだが…こんな反応は初めてだった。だからこそ、混乱しているのかも知れなかった。
 はらりと零れた涙。それを隠すように慌てて背を向けたシーリアは、そのまま掌で頬の涙を拭うと小さく笑いを零した。
「御免なさい。笑って御見送りしようと思っていましたのに…」
 背中を向けているものの、懸命に笑おうとしているその姿に、ルシフェルの胸が僅かに軋んだ。
 久し振りにその胸に感じたのは…明らかな"後悔"。
 出逢わなければ良かった。本心からそう思ったものの…出逢ってしまった以上、それは過去の戯言にしかならない。
 小さく溜め息を吐き出したルシフェルは、シーリアのその背中に歩み寄る。そして、手を伸ばせば直ぐに手が届く距離で足を止めた。
 抱き締めようと思えば、容易に抱き締められる距離。けれど…その腕を伸ばすことが出来ず、固く握り締めた掌。それは…ルシフェルが見せた葛藤、だった。
「わたしは…熾天使だった頃も、勿論今でも…自分の生き方に後悔はしないと決めていた。だからこそ、罪悪感など感じなかった。魔界へ降りた時も、後悔も罪悪感も感じてはいなかった。けれど…今、貴女を泣かせたことで、罪悪感を感じているよ。我々は、出逢わなければ良かったのかも知れない。そうすれば…貴女もわたしも、こんな想いをしなくても良かっただろうに…」
 その背中に向け、ゆっくりとそう言葉を紡いだルシフェル。
 吐き出した溜め息が、とても重い。
 けれど、そんなルシフェルの溜め息を聞いて、シーリアは小さく息を吐き出して振り返った。
 涙で潤んだその眼差しで真っ直ぐにルシフェルを見つめ、そして小さく笑った。
「泣いたりして御免なさい。でも私は…本当に、出逢えて良かったと思っています」
「シーリア…」
 手の甲で涙を拭い、微笑んだシーリア。そして一歩、ルシフェルに歩み寄ると、その胸元にそっと額を寄せた。
「貴方様が好きです」
 もう一度そう口にしたシーリアに、ルシフェルは小さな溜め息を一つ。
 堕天使と天界人。その二名を繋ぐ現実は、決して甘くはない。
 ルシフェルはそれを良くわかっているが…シーリアは、何処までそれを理解しているのだろう。
 そんな想いを抱きつつ、寄り添うシーリアの髪にそっと顔を寄せる。
「想いを繋ぐと言うことは…一筋縄では行かないんだよ?」
 そう言葉を紡いだルシフェルに、シーリアは笑いを零した。
「わかっています。認められない関係であることも、その想いが報われると言うことは、私が魔に堕ちるのだと言うことも。ですが、私は後悔はしません。貴方様に追い縋って、迷惑をかけるつもりもありません。私は…これからも天界人として、真っ直ぐに生きて行くつもりです。どんなことがあっても…それが、私が選んだ道ですから」
 ゆっくりと放ったその言葉に、小さな溜め息を吐き出したルシフェルだったが、その後くすっと笑いを零した。
 そして、その腕を伸ばし、シーリアの背にそっと回した。
「貴女は強いね。ミカエルが見込んだだけのことはある」
 その言葉に、シーリアは顔を上げ、笑いを零した。
「出逢えたのが、貴方様だったから、だと思います」
 その微笑みは、まさに天使の微笑み。
 そして。
「今後、御迷惑を御掛けするつもりはありません。ですから…貴方様の子供を、産んでも良いですか…?」
「…飛躍するね…」
 その思いがけない言葉に絶句するルシフェルだったが、シーリアは真剣な表情を浮かべていた。
「貴方様の血を、残したいんです。それが天界の脅威になるか、魔界の脅威になるかはわかりませんけれど…私は、貴方様の子供を産みたいんです。想いを繋いだ最終的な結果はそう言う事ではありませんか?」
「…まぁ…ねぇ」
 確かに、シーリアの言うことは間違ってはいない。天界人にとって、恋愛は純粋なもの。だからこそ、子を成さない同性間の結婚が認められていないのだ。
 とは言うものの、熾天使であった頃から長いこと堕天使として生きて来たルシフェルは、その正当な関係性には縁がなかった。寧ろ、双方が望まなければ子を成すことがない魔族としての関係の方が割り切った関係でいられる分、都合が良かったのかも知れない。
「ちょっと…落ち着こうか」
 臆した訳ではないが…唐突な話の流れに、ルシフェル自身が付いていけていない。そう感じて、小さな吐息を一つ。そして、シーリアの身体を離すと、手を取って共にベッドへと腰掛けた。
「…まず、貴女がわたしの子供を産んだとして…だ。生まれて来る子供は、確実に堕天使だよ?貴女が姿が変わらなくても、わたしの血を受け継いだ子供は、魔を纏う。それをわかっているだろう?貴女を見込んだミカエルに対しても、裏切る結果になるのでは?」
 問いかける声に、シーリアは小さく頷いた。
「勿論、わかっています。ですが、ミカエル様は私が後悔しない道を選べと仰いました。勿論、ミカエル様にも御迷惑を御掛けするつもりはありません。子供も、生まれて直ぐにその能力を封印すれば、私の手を離れるまで、天界人として育てていくことも可能なはずです。軍は辞めることになるかも知れませんけれど、それに関して悲観はしていません。親子二人、慎ましく生きるのなら何とかなりますから」
 真っ直ぐな眼差しでそう語るシーリア。
 正直…そこまで先の未来を見ているとは思っていなかった。そしてルシフェルは、自分の考えの甘さに、思わず苦笑する。
 シーリアは、何処までも真っ直ぐで強い。それを、改めて思い知らされた。
「…まぁ…確かに、貴女が言わんとしていることは正当であるし、思い描いている未来があることもわかった。けれど、現実はそんなに甘くはないよ?誰か一人にでも真実が知られてしまったら、貴女も子供も、多分生命はない。そんなリスクを背負ってまで、子供を産みたいと…?」
 諭すようにそう問いかけてみる。
「確かに、リスクはあるかも知れません。でも、私は…このまま、忘れてしまいたくはないんです。貴方様に出逢ったことも、こうして貴方様を好きになったことも。私の考えが楽天過ぎると思う気持ちはわかっています。その思いを隠したまま、ただの戯れとしての関係を繋ぐことも考えました。でもそれでは、自分の気持ちに嘘をつくことになります。後に、何処からか私がひっそりと子供を産んだことが貴方様の耳に届いたとしたら、どんな気持ちですか?きっと、騙されたと御思いになるでしょう?私はそれでも構いませんが、生まれた子供が報われません。今夜一晩以外は、貴方様には、御迷惑は御掛けしません。それでも…私の願いを受け止めてはいただけませんか…?」
「…そう言う事ではなくてね…」
 どう返事を返して良いのか…と思案しながら、ルシフェルは溜め息を一つ。
「わたしに迷惑だとか、そう言う事は考えなくて良い。別に今は、清廉潔白な熾天使様ではないからね。今更、どんなことを言われようが、後ろ指を差されようが、気にはしない。ただ…貴女一人に、全てを押し付けることになる。わたしは、貴女を護ってあげることが出来ない。貴女が産みたいと言うわたしの子供を、護ってやることが出来ない。今はまだ予測でしかないことだから、いざその時になってみなければわからない困難は沢山あるはずだ。そうなった時にどうするつもりだ?貴女一人で、本当に子供を護れると?」
「…だから駄目だと…?」
 哀しそうな表情を浮かべたシーリアに、ルシフェルは溜め息を吐き出しながら首を横に振る。
「わたしは、貴女をこの地に置いたまま、魔界へ逃げ帰るんだ。そんな卑怯な男に拘る必要はないのでは…?と言いたいんだ」
「そんなこと…」
 今度は、シーリアが首を横に振る。
 もしも、これから先の未来に対しての負い目があるのなら。それがルシフェルの重荷となっているのなら。そう考えると、この先何も出来ない自分自身が、不服なのかも知れない。
「全部、私が選んだ道です。ですから、一人で背負う覚悟をしたんです。そのことに負い目があるのなら…その分…今夜、一生分、愛してください。それだけで、十分です」
「………」
 そこまで固い、シーリアの決意。その想いに、ルシフェルは大きく息を吐き出した。
 その表情は先ほどまでとは違う。とても柔らかい…優しい、微笑み。
「…貴女の気持ちはわかった。そこまでの覚悟を決めているのなら…もう、何も言わない。ミカエルに怒られようが、恨まれようが…今夜は全部、貴女に捧げようか」
「…ルシフェル様…」
 くすっと笑ったルシフェルは、隣に座るシーリアの手をそっと握り締めた。そして、その耳元にそっと顔を寄せる。
「…愛しているよ。この先もずっと。わたしが、貴女を覚えている間…ずっとね」
「…私も、愛しています。生きている限り、ずっと」
 御互いの想いを、せめてもの誓いの言葉として。
 重ねられた唇は、その想いを繋いだ証。
 シーリアと約束した通り、一生分とも言えるくらい精一杯の愛情に満たされていた。

◇◆◇

 翌朝。眩しくて目を開けたミカエルは、一瞬自分が何処に寝ていたのかと咄嗟にわからないくらいの状態で目覚めた。
「…あぁ、そうか…」
 長い髪を手櫛で整え、襟足を結わえ直す。そして大きく伸びをすると、別荘へ向かって歩き出した。
 その道すがら。今後の事へと考えを巡らせる。
 恐らく、ルシフェルとシーリアは関係を結んだだろう。となると、彼女は堕天使と言うことになる。異性であるから、当然子供が出来ても可笑しくはない訳で…そうなると、産まれて来る子供をどうするか、と言う問題が出て来る訳で…。
 ルシフェルの事であるから、シーリアを魔界へ連れて行く…と言うことはないだろう。と言うことは、必然的に、その後の責任を背負うのはミカエル、と言うことになる。
「…さて、ラファエルには何と説明するかな…」
 溜め息を吐き出しつつ、ミカエルは歩みを進める。
 ラファエルの事、突き放すことはないだろう。けれど、産まれるであろう子供のことを考えれば…ルシフェルの血を色濃く引き継いでいるはず。即ち、ルシフェルに似ているはず。それをどう思うか…と言うところが、一番のネックとなる。
 悩んでいる間に、別荘へと到着する。もう起きているだろう…と思いつつ、顔を合わせるのも何処か気まずい感もあるのだが…まぁ、その辺りは仕方がない。自分が焚きつけたのだから…と、諦めの溜め息をひとつ吐き出し、ミカエルは別荘のドアを開けた。

「御帰りなさいませ」
 ミカエルを出迎えたのは、シーリア。その顔は、非常に晴れ晴れとしている。
「あぁ…ただいま。随分機嫌が良いね?」
 くすっと笑ったその顔に、シーリアは少し顔を赤らめた。
「…まぁ、笑って見送れるのならそれに越したことはない」
 そう言って笑ったミカエルは、時計へと視線を向ける。
「まだもう少し時間はあるね」
 ミカエルはそう言い残し、シーリアに背を向ける。そして、ルシフェルの部屋へと足を向けた。
 その背中を、シーリアは黙って見送っていた。

 ルシフェルの部屋のドアをノックし、中からの返事を確認すると、そのドアを開けて部屋の中へと足を踏み入れた。
 既に、身支度を終えていたルシフェル。
「準備は、出来ているようですね」
「まぁ、ね。いつまでも未練を残しておく訳にもいかないからね」
「未練…ですか?」
 ルシフェルの言葉に、ミカエルは僅かに眉を寄せる。
「シーリアを…連れて行くつもりは…?」
 ふと問いかけた声に、ルシフェルは小さく笑いを零した。
「夕べ、彼女に宣言されたよ。自分は、この天界に残るとね。わたしに迷惑をかけない為に…ここで、天界人として真っ直ぐに生きると。そして…この地でわたしの子を産む、とね」
「……まぁ、彼女ならそう答えるでしょうね…」
 やはり…と、ミカエルは溜め息を一つ。
「で、貴方はそれを受け入れた訳ですよね…?」
 問いかけたミカエルの声に、ルシフェルは苦笑する。
「正直…わたしは自分が嫌になるよ。結局いつも…大事なヒトを置き去りにすることしか出来ない。魔界へ連れて行くことは簡単だ。だが、その後の事を考えれば天界にいた方が彼女は安全だ。何より…御前がいてくれるのなら、な」
「…そうやってまた、わたしに後見を押し付けるんですから…」
 呆れたような溜め息を吐き出したミカエル。だが、それを納得して、シーリアは自分の歩くべき道を決めたのだろう。それには文句をつける訳にはいかない。
「彼女が決めたことなら…わたしは何も言いませんよ。元々…わたしが焚きつけたんですから…責任は持ちますよ」
 そう言ってルシフェルを見つめたその眼差しは、ルシフェルが良く見知っていた、あの真っ直ぐな眼差しだった。
「…そう言ってくれると助かるよ。これから、魔界では世継ぎが生まれる。一応、軍事局の参謀長が教育係を勤めることになっているようだからね。わたしも慌しくなる。シーリアの事を気にかけてやることが出来ない。だからこそ…御前に頼むんだ。彼女を…産まれて来るであろう子供を、護ってやってくれ」
 その濃紺の眼差しは、真剣そのもの。だからこそ、ミカエルもその思いに応えるしかなかった。
「彼女と子供は…わたしがちゃんと護りますよ。責任を持って、ね」
 その言葉には、ミカエルの決意も感じられた。
 全て、予測は付いていた。だからこそ、それを黙認した責任はミカエル自身にあるのだと。
「わたしも…ここへ来るまで、暫く考えていました。多分、彼女は貴方を愛した証として、子供を産むつもりでいるだろうとね。勿論、彼女がそう決めたのなら異論はありませんよ。我々と違って、それが正当な恋愛ですから。ただ、恐らく…ここから帰って直ぐに彼女が子を成したとわかったら、色々と問題がありそうですからね…本来なら、直ぐに産むべきではないと思います。彼女が納得するのなら、数年ずらすことも考えています。今ならまだ間に合うでしょう?」
 ミカエルの言う通り、帰って直ぐに子を成したとなれば、相手は誰だ、と詮索される候補としてミカエルやラファエルの名が挙がるはず。ミカエルの子であるのなら問題はないのだが、産まれて来る子は確実に堕天使である。注目を浴びる訳にはいかないのが実情なのだ。
 天界人の血を受けているのなら、種の保存は可能である。今すぐに産まなくても、数年先に子を成すことも、シーリア本人が納得すれば無理なことではない。だからこそ、ミカエルはその選択肢を視野に入れていたのだ。
「確かに…な。その方が彼女にとっても良いことだろう」
 ミカエルの意見に素直に頷いたルシフェル。既に、その時点で自分の手を離れてしまった現実。けれど…そうすることでしか、シーリアを護ることは出来ないのだから、全てミカエルに預けるしかない。
「…有難う、ミカエル」
 軽く微笑み、頭を下げたルシフェル。ミカエルとて、ルシフェルのそんな姿を見るのは初めてだった。
「…やめてください。貴方に頼まれたからじゃない。わたしは、自分の手で彼女を護りたいだけです」
 敢えてそう返したミカエルに、顔を上げたルシフェルは僅かに微笑んだ。
「…そう、か。ならば尚更、彼女を頼むな」
「…言われなくても」
 小さな溜め息と共に吐き出した言葉。けれどその後直ぐに、笑いが零れる。
「会うことは出来ないかも知れませんが…子供が産まれたら、連絡だけは入れますよ。せめて、それくらいはね」
「…そうだね。その報告を首を長くして待っているよ」
 くすくすと笑うその姿は、とてもかつての熾天使とは思えないくらい柔らかい。
「さぁ、そろそろ時間だ」
 時計へと目を向けたルシフェルは、そう言って話をそこで区切った。
「色々世話になったな。有難う」
 改めてそう言って、手を差し出したルシフェル。その手を握り、微笑んだミカエル。もう会うことはないかも知れないが…次に出会うとしたら、戦地であることには間違いない。
 だからこそ、この数日は貴重な経験となった。

 予定の時間となり、ミカエルは来た時と同じようにルシフェルの部屋で魔法陣を敷いていた。
「…では、道を繋ぎますよ」
 その言葉と共に、魔法陣に能力が満ち始める。
 見守るのはルシフェルと…そして、その隣で控えめに見つめるシーリア。
「…愛しているよ」
 シーリアだけに届くように、小さくつぶやいたルシフェルの声。そして、その手にそっと握らせた小さな蒼い石。
「…これは、御守りだ。貴女と…産まれて来る子供の為に、ね」
 囁くような声に、シーリアは小さく息を吐き出して目を閉じる。そして、小さな頷きを返した。
「…愛して、います。どうか…御元気で…」
 顔を上げ、真っ直ぐにルシフェルへと向けられた天使の微笑み。その微笑みを、目を細めて見つめるルシフェル。
 もう、二度と会うことのない…最愛のヒトへ。
 そんな最後の別れを無情に引き裂くように、魔界のルシフェルの屋敷との道が繋がった。
「…さ、時間ですよ」
 小さく呼びかけたミカエルの声に、ルシフェルはそっと頷くと、魔法陣の中へと足を踏み入れた。
 繋がった穴の向こうに見えたのは、心配そうな表情を浮かべていた補佐官。
「…ルシフェル様…御帰りなさいませ」
 ルシフェルの姿に、僅かに安堵の表情に変わる。
「あぁ、マラフィア…心配かけて悪かったね。もう、大丈夫だ」
 にっこりとマラフィアに笑いかけたルシフェルは、僅かに後ろを振り返る。
「…じゃあ、な」
 そう言葉を残し、ルシフェルは再び歩き始めた。
 振り返らず、真っ直ぐに魔界へ。
「さようなら。御元気で」
 呼びかけたミカエルの声に、背中を向けたままそっと手を上げる。
 そして…頭を深く下げるマラフィアと共に、完全に魔界へと帰って行ったルシフェル。
 そっと閉じていく穴を、シーリアはただじっと、見つめていた。
「…大丈夫か?」
 全てが終わり、大きく息を吐き出したミカエルは、ただ立ち尽くすシーリアにそう声をかける。
「…大丈夫です」
 大きく息を吐き出し、にっこりと笑ったシーリア。
 その強さを目の当たりにし、ミカエルも笑いを零した。
「我々も王都へ帰ろうか」
「…はい」
 思い残すことは、もうない。
 それは、御互いの心に言えることだった。
 そして、彼等は再び歩き出した。
 真っ直ぐに…己の選んだ道を信じて。

◇◆◇

 魔界で世継ぎたる皇太子が産まれたとの話を聞いた数年後。シーリアは、宣言通りひっそりと子供を産んだ。
 人知れず育てる為に、と選んだのは、あの別荘の近くの小さな家。そこが、今のシーリアの住まいだった。
 その場に立ち会ったのは、医師とミカエル、ラファエルの三名。当然、ミカエルの息のかかった医師ではあるが、全ての処置が終わった後は記憶を消されることは間違いない。
 産まれたばかりのその子供は、短いがはっきりとした癖のある柔らかい黒髪に、黒曜石の瞳。そして、まだはっきりとは浮かび上がってはいないものの、うっすらと白いその顔に戴くのは蒼い紋様。
 見た目は完全に悪魔ではあるが…背中に背負った小さな翼は、真白。
「…可愛い」
 産まれたばかりの我が子の姿に、シーリアは満面の笑みを零した。
 ルシフェルの面差しを持つ、小さな赤子。その力強い産声に、感慨は一入であることは間違いない。
 一時、誰もがそれぞれの胸に抱いた想いを噛み締める。
 そして…一頻り堪能した後、ミカエルが口を開いた。
「…では、封印を施すよ。良いね?」
 その声に、シーリアは枕元に置いた小箱の中から、小さな蒼い石のついたペンダントを取り出すと、赤子の首にかけた。
 それは、あの日…ルシフェルから貰った、御守り。それを、この赤子に託した。
「…御願い致します」
 シーリアの返事を聞き、ミカエルは小さく頷くと呪を詠唱する。
 呪の能力が高まるにつれ、光に包まれる赤子。そしてその光の中、纏った黒は金色へと変わる。
 それは、赤子が天界で生きて行く為に必要な封印。それも、最高峰の封印。
 封印の呪を終えたミカエルは、赤子の額にそっと口付け、呪を結んだ。
 完全に天使の子供へと姿を変えた赤子。真っ直ぐにミカエルを見つめるその無垢な眼差しを見つめながら、ミカエルは小さく微笑んだ。
「名を…つけないとな。この子の名は……ルカ、にしよう」
「…ルカ…」
 黙って見つめていたラファエルは、小さくつぶやきを零す。
 それは、ルシフェルの名から取った名前に違いない。当然、ラファエルの表情は複雑極まりないのだが…今は、自分の感情でどうこうしようとは思ってはいなかった。
 ただ、無事に産まれたことを喜ばなければ。
「良い名前です。有難うございます」
 にっこりと微笑んだシーリア。
「一つ…言って置く。今わたしが施した封印は、絶対じゃない。いつか、ルカの"能力"が目覚める時が来る。その時は封印は破られるだろう。その時は…覚悟をしておかなければいけないよ」
 念を押すようにそう言葉を続けたミカエルに、シーリアはにっこりと微笑んだまま。
「わかっています。大丈夫です。その日まで…わたしがちゃんと、ルカを育てますから」
 その強い意志は、変わることはない。
 強い、母の愛情。それがせめてもの、救いだった。

 そして、彼の……"ルカ"の運命の針は、廻り始めた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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